慟哭の箱 1
「俺は担当刑事じゃないから・・・どうしてやることもできんのだが、そうだなあ」
清瀬はベッドのそばまで戻る。そしてパイプ椅子を引き寄せるとだらしなく腰かけて笑うのだった。
「まあ、きみが落ち着くまでここにいるくらいなら、いいがね」
涙が出そうになる。頼りない、だけど温かな笑顔だった。
「あ、ありがとうございます・・・」
言いかけた言葉は乱暴に開かれた扉の音に掻き消える。
「ご苦労さんだが、ここからは一課の仕事でね」
大勢の男たち、たぶん刑事らが入ってきた。清瀬をじろりと睨んだのち、旭にも同じような視線を送ってくる。
「彼は混乱しています。無理な取調べはよしてください。怪我だってしている。被害者ですよ」
清瀬の言葉に、やかましそうに手を振る刑事。不遜な態度だ。
「わかっているよ。口出し無用だ」
「なら結構ですが」
清瀬は短く嘆息すると立ち上がった。行ってしまう。再び湧き上がるどず黒い不安に清瀬を見る。
「きみは正直に話すだけでいい」
清瀬は笑うと、それきり出て行ってしまった。取り残された不安に、旭は肩をすくめる。一体自分はどうしたというのだろう。何が起こっているのだろう。真っ暗な世界に放り出された不安が、喉もとからせりあがってくるのを感じた。