慟哭の箱 1
「ここは朝霧病院。今は、午前二時ってところかな」
「・・・俺は、どうして病院に、いるんですか・・・」
どうやら怪我をしているようだから、何か事故にでもあったのだろうか。だけど、旭にはまったく何も思い出せない。
「俺は県警本部から来た刑事だ。きみは山中で倒れているところを発見された」
「は?」
刑事?山で倒れていた?
「・・・意味が、わからない・・・」
これは夢の続きか?悪夢の。清瀬は穏やかな瞳のままこちらを見つめている。
「きみは殺人事件の重要参考人として、これから事情聴取を受けなければならない」
「・・・殺人事件?」
全身に冷水を浴びせられたような衝撃。旭はすがるように清瀬を見つめる。
「どういう・・・ことですか・・・?俺は、誰かを殺したんですか・・・?」
怖い。意味がわからない。戦慄く旭を、清瀬が少しばかり眉をひそめて見つめ返してくる。
「何も覚えていないのか?」
「わ、わからないんです・・・俺、殺人って・・・な、なんですか?」
ふむ、と清瀬が考え込む仕草を見せる。
「とにかく医者を呼んでくるから」
清瀬が病室を出て行こうとする。
「待ってください!行かないで下さい!」
一人に、してほしくない。こんなわけのわからない状況に放り込まれて、気がおかしくなりそうだ。清瀬の静かな声と瞳だけが、自分を正常な世界に繋ぎとめてくれている、そんな気がするのだった。