慟哭の箱 1
そこを軽トラで通行していた地元の老人が、道路に散らばっているバッグや免許証に気づいて足を止めたという。不審に思って道路脇の雑木林にヘッドライトを向けると、横たわる遺体を発見した。
「あたりに緊配を敷いてる。この雨じゃあ証拠も何も流れてやがるな」
山道を登ると、パトカーの灯りと捜査官たちで辺りは賑やかだった、所轄の刑事らに迎えられた秋田について清瀬らも雑木林へと分け入った。傘など何の役にもたたないほどの驟雨だ。寒さに息が白くなる。
「ふうん」
秋田が遺体のそばに屈みこみ、清瀬も後ろからそれを見た。折り重なった男女だ。年のころは、二人とも50代といったところか。雨で血が流れてしまっているとはいえ、外傷は悲惨なものだった。体中の刺し傷。頭は割れている。極限まで開かれた瞳は、最後に何を映したのだろうか。
「ひどいな」
「うう・・・」
沢木は口元を覆っている。夜の雨のなかに横たわる悲劇は凄惨を極めていた。
「財布や免許書は、道路に散らばったままです。携帯電話や凶器らしきものは見つかっていません」
「遺体の状態からいって、ハスか」
怨恨。滅多ざしの遺体。彼らの何が、この死を呼び寄せたのだろうか。清瀬は立ち上がり、辺りを見渡す。懐中電灯の明かりを頼りにぬれた草むらに分け入った。
「清瀬さん?」
「ちょっとあたりを見てくる」
スラックスの裾が水をすって重い。清瀬は構わず、捜査員たちのいる現場から離れ、雑木林の奥へ進む。