慟哭の箱 1
「・・・だから須賀くんを気にかけてるのね」
妹は力なく笑い、そう言った。
「自分と重ねて、ほっとけないのね」
「・・・そうかもしれない」
「でもお兄ちゃん、お兄ちゃんにはわたしたちがいるのよ。父さんも母さんも、お兄ちゃんを愛してる。本当に大切に、思って・・・」
「うん・・・知ってるよ」
「だ、だからっ・・・帰って、おいでよ・・・」
涙をこぼす妹に、どんな言葉をかけてやればいいのだろう。清瀬には、愛する家族を護る方法がこれしかなかった。自分を、遠ざけるしか。自分の中に流れる血を、清らかな家族から遠ざけることしか。
「・・・ごめん。わたしもう帰らなきゃ。桜の寝る時間だ」
「送るよ。須賀くんはよく眠ってるみたいだし」
「ありがとう。じゃあ、お願いしようかな」
梢を旦那の実家まで送り届ける。車を降りた妹は、静かな声で呟くように言った。
「須賀くんのこと、ちゃんとしてあげてよ」
「わかってる」
「じゃ、おやすみなさい」
「おやすみ。ありがとう」
一人になった車内で、清瀬は家族のことを思う。寡黙で厳しいが深い優しさを持つ父と、温かな春の日差しのように穏やかな母、そして梢。清瀬の家族。世界で一番大切な。
(いつか許される日が来るのかな)
清瀬は罪を背負っている。それが許されたとき、胸を張って会いにいけるのだろうか。
(いや、許される日など来ない)
清瀬はそれを知っている。戒めるように、その痛みを刻みながら生きるしかない。きっと、死ぬまで。