慟哭の箱 1
その後、遠くから親類――旭の叔父らが駆けつけたが、旭は彼らとともに帰ることを頑なに拒絶した。その態度から、旭と叔父らとの関係が良好でないことが伺えた。
後に秋田から聞いたところによると、須賀夫妻は企業の理事も務める資産家であり、雅人の弟であるこの叔父が跡を継ぐことになったという。殺人の動機としては弱いが、兄の会社がそのまま弟のものになるという点では、考慮すべきことであろう。喪主もこの叔父が勤めるという。
「通夜と葬儀には帰ります。だから、今は自分の部屋に帰してください」
気弱な青年が、厳しい表情できっぱりと告げるのが、清瀬には印象的だった。叔父というが、須賀夫妻の実子でない旭とは血が繋がっていない。彼を取り巻く環境が。彼にとって決して幸福なものではなかったことを感じ取り、清瀬は申し出た。
「ではうちに来るかい」
清瀬、と秋田が目を丸くした。
「彼は重要参考人です。単独で家には帰せないでしょう。そばにいれば監視も警護もできます」
彼を「殺し損ねた」者が、また現れないとも限らないのだ。
「しかしだなあ。ううん」
うなる秋田の隣で、須賀旭は目を丸くしている。思いもかけない清瀬の申し出だったのだろう。
「わたしは賛成です。須賀くんには休息が必要です。落ち着いて心が安定すれば、思い出すこともあるでしょう。気詰まりな状況が続いていますから、ほっとできる場所が必要だわ」
あの女医が言った。
「あなたもそう思いますか、川上さん」
「わたしは野上ですけど」
野上が清瀬を睨んだ。ごめんなさい。
「きみがよければだけど、どうかな」
「・・・よろしく、お願いします」
旭はほっとしたように頭を下げたのだった。
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