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生と性(改稿版)

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「いや、私も考えたんですよ。最初はあなたを婦人相談所に送って更生させようと思ったんですけどね。あなたにはあなたを必要とする人たちがいる。それも大きな悩みを抱えて……。あなたが仕事にポリシーを持っているのはわかる気がしますよ。まあ、いわゆる『必要悪』ですな」
 瀬田刑事が照れくさそうに笑った。だが、恵美の顔は晴れない。
「そう、やっぱり刑事さんにとって私の仕事は『売春』で『悪』なんだ」
「いえいえ、今のはそのー、言葉のあやと言うか……、そのー、済みません。本当にあなたのこと尊敬しているんです。大変なお仕事をなさっているなぁって」
 瀬田刑事の狼狽振りが可笑しくて、恵美は思わず笑ってしまった。だが、不思議なことに瀬田刑事への「恨み」に似た感情は湧いてこなかった。
「済みません、この辺で失礼します」
 瀬田刑事が立ち上がった。恵美は玄関まで見送り、「お仕事、ご苦労様です」と言って敬礼の仕草をしておどけた。その口元は笑っていた。

 尚樹の母親から電話が入ったのは翌日の朝だった。
「大変なの。尚樹が『お姉さんが来ない』って言ってパニックになっているのよ」
「えっ、パニックに?」
「そうなのよ。私じゃ手が付けられなくて……。大変な状況だと思うけど、尚樹の『性介助』をお願いできないかしら?」
 その言葉は恵美に決意をさせた。
(やっぱり、私が行かないとダメなんだ!)
 そう思った恵美は「今から行きます」と言って、ブラウスを掴んでいた。
「じゃあ、絵カードを入れておいていいわね?」
「絵カード?」
「自閉症の尚樹は一日の予定がわからないとパニックがひどくなるのよ。だから養護学校時代から絵カードで一日のスケジュールを示しているの。先日も恵美さんが急にこられなくなったからパニックを起こして……」
 自閉症は脳に起因する認知とコミュニケーションの障害で、先の予定が読めないとパニックを起こすことがしばしばある。自閉症のほとんどは知的障害を併せ持っている。尚樹もその内の一人だ。
「そうだったんですか……。それは悪いことをしました」
「不可抗力ですもの。それは仕方ないわ。じゃあ、今日の予定に恵美さんの絵カードを入れておいて大丈夫ですね」
 尚樹の母親は縋るように確認した。恵美は「ええ、必ず行きます」と言って電話を切った。そして、手短に化粧を施すと、バッグを掻っ攫ってアパートを出た。

 尚樹の家に到着すると母親が首を長くして待っていた。
「兎に角、尚樹を何とか慰めてやってくださいまし」
 恵美はすぐ二階の尚樹の部屋へと上がった。尚樹は耳を押さえながら「うほー!」と奇声を発していた。額には真新しい傷がある。そこからは少量であるが出血していた。母親はパニックになると自傷行為も見られると言っていた。恵美は壁を見た。そこには額を打ち付けたのであろう、真新しい血液が付着していた。
「尚樹さん、来たわよ。私よ、高田恵美よ!」
 尚樹は恵美を見ると「うひー!」と言って、抱きついてきた。そして、やや乱暴にブラウスを脱がそうとする。恵美は自ら服を脱いだ。
 尚樹も服を脱ぐ。ペニスは痛そうなほど勃起していた。
「おうおう……」
 尚樹は奇声を発しながら、ベッドに上がった。恵美もベッドに上がる。尚樹は雄の仕草で恵美の乳房を鷲掴みにした。その力加減は傷みを感じるほどだった。
「ああ、尚樹さん、痛いわ」
 だが、そう言っても尚樹には通じない。恵美は尚樹から身をかわす。しかしながら、尚樹は執拗に乳房を掴もうとする。恵美は仕方なく尚樹の好きなようにさせることにした。
 尚樹は猛り狂った雄のように乳房を求めてきた。それは本能なのだろうか。尚樹は乳首を吸い始めた。それも強い吸引力で。
「ああっ、尚樹さん、そんなに強く……」
 どのくらい尚樹は乳首を吸っていただろう。尚樹は乳首から口を離すと「エッチ、エッチ」と言った。それがセックスを示すことを恵美は知っていた。
 恵美は痛々しいほど勃起したペニスにコンドームを被せると、ローションを垂らした。自分の膣も荒々しい雄の愛撫で、少しは湿っていることを自覚している恵美であった。
 恵美は尚樹を寝かすと、ペニスを膣へと導いた。そして、腰を落としていく。尚樹と交わる時はいつも騎乗位だ。いや、ほとんどの顧客と騎乗位で交わっている恵美であった。
 恵美は激しく腰を動かした。
「ひほー!」
 尚樹が素っ頓狂な声を上げる。硬く起立したペニスは恵美の「女」を貫いていた。それが子宮を突き上げる。
「ああっ、尚樹さん……。私もこれが欲しかったのよ……!」
「うひーっ!」
 尚樹のペニスが跳ねた。射精したのだ。恵美は腰を上げて、ゆっくりとペニスを引き抜く。コンドームは恵美の膣から分泌された蜜液でヌラヌラと輝いていた。
「わっはははは!」
 尚樹が豪快に笑った。さも愉快そうに。
(そうよ。この笑顔が見られる限り、私はこの仕事を辞めないわ……!)
 恵美は心の中で叫んでいた。

 尚樹の「性介助」が終わって、恵美は一階に下りた。そこでは母親が頭を抱えていた。その表情は浮かない。
「お母さん、終わりましたよ」
「ああ、ありがとうございます」
 母親が顔を上げた。
「今、紅茶を淹れるわね」
「どうぞ、お構いなく」
 それでも母親は紅茶を運んできた。恵美はそれを啜った。母親は「はあーっ」と深いため息をついた。
「お母さん、尚樹さんはもう落ち着きましたよ」
「いや、こんなことがあるとね、先々のことを考えてしまうのよ」
「先々のこと……ですか?」
「高田さんもこの先、何十年もこのお仕事やっていられないでしょう? 高田さんがこのお仕事辞めたら、その後、尚樹が我慢できるかどうか、それが心配で……」
 恵美は母親が心配するのはもっともだと思った。「性介助」の仕事に新たな決意をした恵美だったが、いつまでも出来る仕事ではない。いずれは幸せな結婚もしたい。そうなった時、この仕事からは引退せざるを得ないだろう。
(そうなったら、私のお客さんたちはどうなっちゃうんだろう?)
 そんな考えが恵美の脳裏に過ぎった。一度、セックスの快楽を覚えた身体は、それを求め続けるだろうとも思う。かといって、後継者や同業者がいるわけでもなかった。
「大丈夫ですよ、お母さん……。私も当分、この仕事は辞めませんから。その問題は今後、一緒に考えていきましょう」
 今はそう言うのが精一杯だった。母親は「ええ」と言って、瞳を拭った。母親の心配は深刻なものだと恵美は感じ取っていた。それは、恵美の心に重く圧し掛かっていた。

 その晩、恵美は馴染みの居酒屋でビールを飲んでいた。尚樹の母親の心配を考えれば、足の痛みはまだマシに思えた。恵美は瀬田刑事の言った「必要悪」という言葉を思い返していた。
(もし、私がこの先、みんなを不幸にするんだったら、やっぱり『悪』なのかしら?)
 そんなことを考えながらジョッキを傾ける。
 居酒屋の端にはテレビが置かれている。十四型の小さなテレビだ。ふと恵美はテレビに目をやった。丁度、端の席に座っていたので、テレビに近かったのだ。
作品名:生と性(改稿版) 作家名:栗原 峰幸