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生と性(改稿版)

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「わかりました。お迎えにあがります。本当にありがとうございます」
 臼井は相当に嬉しかったのだろう。泣きそうな勢いでそう言った。恵美は「じゃあ、よろしく」と言って電話を切った。
(ふう、高齢の知的障害者か……。それも施設入所者……)
 恵美は自分の仕事の幅が広がったような気がした。顧客が増えるのは嬉しいが、自分の許容範囲はどこまでだろうと、ふと考える恵美だった。

 その日は午前中に尚樹のところへ行き、百日台の駅の近くのレストランでランチを摂った。向かいの席には仲の良い親子が食事をしていた。父親も母親も、そして子どもも幸せそうに笑っている。子どもはそれがお気に入りなのだろうか、「仮面ライダー」のソフト人形をずっと握り締めていた。恵美はそんな光景をぼんやり眺める。
(こんな仕事をしていたら、結婚は当分無理ね……。まあ、今はこの仕事が楽しいからいいけど……)
 恵美は時計を見た。もうすぐ臼井が迎えに正午である。恵美は親子に惹かれながらも、勘定を済ませて、レストランを後にした。
 駅前のロータリーで待っている間に、恵美の携帯電話が鳴った。メール受信音だった。恵美は携帯電話を確認した。それは美佐子からのメールだった。
「先日はありがとう。私たち、取り敢えず入籍だけ済ませることにしました。隆、ローション買ってきたよ。結構、恥ずかしかったらしいんだけど……。隆にも恵美にも感謝です」
 そんなメールを見て、恵美はフッと笑った。きっと隆と美佐子ならば仲良くやっていけると恵美は確信していた。
「どうも、野菊園の臼井です」
 恵美がメールに見とれていると、ステーションワゴンから若い男が降りてきた。
「あ、初めまして高田恵美です」
「いやー、よくOKしてくれました。感謝していますよ。さあ、どうぞ」
 臼井が恵美をエスコートし、ステーションワゴンへと招いた。
 道中、臼井は良く喋った。どうやら臼井は野菊園の運営体制にかなり不満を持っているようだった。施設で行われている人権侵害の数々を、恵美にぶちまけたのである。恵美はやるせない視線を車窓に送った。
 帰帆市立野菊園は車で二十分ほど走った、山奥にあった。その建物は立派で臼井の話では近年、再整備されたらしい。清潔感のあるクリーム色の建造物だ。山の中に突如としてこのような建物が現れること自体に、恵美は違和感を覚えていた。
 恵美は臼井に先導されて、施設内に足を踏み入れた。その瞬間、鼻を摘みたくなるような異臭が恵美を襲った。
「臭いでしょう?」
 臼井が笑った。
「何なんですか、このにおい……」
「涎と排泄物と消毒液のにおいですよ。僕も最初は食事が喉を通らなくてねぇ……。再整備されても、このにおいだけは消えないんだな」
 恵美は思わず顔をしかめた。その臭いは立派な建物からは想像も出来ない悪臭だったのである。
 利用者が生活する「寮」には施錠がされていた。臼井は鍵を挿し込み、扉を開ける。悪臭は更にひどくなった。
 利用者たちは寮の食堂でまだ昼食を食べていた。
 車椅子に乗っている者。奇声を発しながら、食堂内を徘徊する者。恵美は食器に目をやった。その日の昼食はハンバーグだったようなのだが、それはカレー皿のような食器にご飯もおかずもすべて混ぜ合わせた食事だった。これでは、どれがご飯で、どれがハンバーグなのかもわからない。付け合せのサラダや煮物も混ぜられていた。それに更に味噌汁までかけられている。
(これは食事じゃなくて、家畜の飼料だわ……)
 恵美はそのカレー皿のような食器を眺め、そんなことを思った。そんなことを思うと、この施設が「家畜場」のように見えてくる恵美であった。
「この食事を混ぜるのも、どうかと思うんですがね……。僕が普通に配膳すると、他の職員がこうやっちゃうんですよ」
 臼井が小声で恵美に囁いた。
「すみません、お手洗いを借りてもいいですか?」
 レストランで紅茶をお代わりした恵美は軽く尿意を催していた。
「あ、だったら職員用のトイレがあっちにあります。利用者用のトイレには扉が付いていないから……」
 その臼井の言葉に恵美は返す言葉もなかった。

 トイレを済ました恵美は新藤章太郎の居室で待った。この部屋にも悪臭が漂っている。それは衣類にまで染み付いているようだった。
 程なくして、章太郎が臼井に連れられてやってきた。車椅子には乗っていないが、歩行器を使用しながらヨタヨタとやってきた。
 章太郎は恵美を見るなり、開口一番「おめえ、女け」と言った。
「じゃあ、僕は外に出ていますので……。あ、ベッドから転落しないように怪我だけは気を付けてくださいね」
 臼井はそう言って、デイルームと呼ばれる共有スペースの方へ引き揚げていった。
 恵美は早く仕事を済ませ、悪臭漂う「家畜場」から退散したかった。だから、章太郎のジャージのズボンをずり下げると、すぐさまペニスにコンドームを被せ、指で扱き始めた。すると、それはすぐに容積を増す。足腰は衰えても、そこだけは元気だった。
「お、おう、女、女してえ……」
 章太郎が下足らずな口調で呻く。恵美は章太郎をベッドに寝かせると、ペニスにローションを塗りたくった。そして、スカートも脱がずに、ストッキングとパンティを下ろした。
 恵美は章太郎に跨ると、自ら腰を落とした。ローションの感触がヌプヌプと膣口を拡げる。栄三郎のペニスの先端は、恵美の子宮口に達していた。
 恵美は一心不乱に腰を振った。章太郎は「おお」とか「ああ」とか呻いている。その口元は薄っすらと笑っていた。
(こんな家畜場みたいなところに入れられて、それでも女を求めるのね……)
 そんなことを考えながら、恵美は腰を振る。もう遠くに置き忘れてきた障害者への「哀れ」という感情が、恵美の中でまた持ち上がりつつあった。
 欲求が今まで抑えられてきた老人は呆気なく果てた。
本当は全裸になって、章太郎に好きなようにボディタッチをさせてやりたかった恵美だった。だが、施設内の不衛生さは服を脱ぐことを躊躇わせたのであった。それに居室の窓に設けられた目隠しも外から自由に覗けるようになっていた。
 恵美はたっぷりとコンドームの中に射精した章太郎のペニスをウエットティッシュで拭いてやった。
「新藤さん、女とできてよかったね」
 恵美がそう言うと、栄三郎はニカッと笑った。
 恵美は代えのパンティとストッキングを持参してよかったと思った。一度、脱ぎ捨てたパンティとストッキングに施設の悪臭が染み付いているような気がして、穿く気にはなれなかったのである。

「済みましたよ」
 恵美はデイルームでテレビを観ていた臼井に声を掛けた。
「ああ、もう終わったんですか」
「ええ、溜まっていたようで……」
 臼井が苦笑を漏らした。臼井は胸のポケットから謝礼の入った封筒を出すと、恵美に渡した。恵美は領収書を臼井に渡す。
「また、駅まで送りますよ」
 臼井が恵美の前を歩き出す。寮の出口の鍵を開けた時だった。
「うおおおおーっ!」
 巨体の利用者が恵美めがけて、雄たけびを上げながら突進してきたのである。
「こら、新山さん!」
 臼井は新山と呼ばれた男は、臼井に羽交い絞めにされた。
作品名:生と性(改稿版) 作家名:栗原 峰幸