とうめいの季節
03.うちの主が一番かわいいし天才だと思ってる
サッカーボールが行き来するたびに砂埃が舞う、河川敷のグラウンド。
「カズキ、いけ、いけー!キャー!」
隣で妻がわが子に熱い声援を贈っている。同じようにわが子の活躍を見守る保護者達が、声を枯らしてエールを贈る先では、小学生のサッカーチームが懸命にボールを追いかけていた。
あなたも休みの日くらい応援にきてよ、と妻に言われて来て見たが、なるほどわが子の活躍は見ていて嬉しく、小学生同士の試合といえどなかなか面白い。
タバコを吸おうと土手をのぼると、保護者には見えない男が難しい顔をしてグラウンドを睨んでいた。ミルクティー色をした髪が印象的だった。不思議な雰囲気を漂わせる青年は、こちらの眼差しに気づいてか、視線を男に向けると会釈をした。
「応援ですか?」
「ええ、妻にせっつかれて・・・なかなか面白いですね。そちらも応援ですか」
「はい。あの22番の」
「ああ、うちの息子の同級生だ。神末くんでしょう」
そうなんです、と青年は言うと、また難しい顔をして口を尖らせた。
「背はちいちゃくて、ほらまたミスしてる。ダメだダメだ、全体が見えてない。焦ってさらにミスを生む」
厳しいなあ、と男は苦笑する。身内を褒めそやすのもみっともないが、彼は少年に対し結構辛辣だ。
「あ、ナイスカット!あれうちの息子」
「エース山岡くんのパパでしたか。彼、大活躍ですなあ」
わが子の活躍はやはり嬉しいものだ。男は息子の姿に頬が緩む。
「チャンスだ!!」
息子のカットしたボールが、ディフェンダーのいなくなったスポット、ゴール前に落ちた。そこに走りこんでいたのは、あの小柄な少年だった。グラウンドに歓声があがる。
「走らんかい伊吹!!」
隣で青年が、歓声に負けない声で叫んだ。少年はそのままドリブルし、キーパーの頭上にゴールを決めた。わーっと保護者から歓声があがり、少年はチームメイトたちと抱き合う。
「やったじゃないですか!」
「いまのは山岡くんのファインプレーでしょう」
腕組みしたまま、クールに言い放つ青年だ。
「いや、機転を利かして走った神末くんの反応が素晴らしかったんじゃないかなぁ」
男がそう言うと。
「・・・いやあ、まあ、そうですねえ、フフ」
あれだけ厳しくクールな表情を見せていた青年が、頬を緩めて笑った。笑うと子どもっぽくて、老成したような中身と若い外見のギャップが不思議だった。
「こら伊吹油断するな!戦場で笑うな!もう一発いけって!」
なんだ、結構熱いヒトじゃないか。男はなんだかおかしくて、そのまま青年の隣で試合を見守った。
ゲームは息子のチームが勝利した。反省会と片付けが終わって、子ども達が保護者のもとに散っていく。男もまた息子の健闘をたたえようと、隣の青年に別れを告げた。そのとき。
「瑞、見た見た?俺一点入れたんだよ!」
神末少年が泥だらけのユニフォームで土手を駆け上がってきた。満面の笑みで青年を見上げている。
「見たよ。あれは山岡くんに感謝だな」
「でも俺いいとこ走ってただろ?」
「まーネ」
「なにかっこつけてんの。瑞の声きこえたよ。でっかい声で、走らんかーいって。おっかしいの」
少年はくすくす笑っている。その隣で青年は、口を尖らせて男は笑い声をもらす。
「親ばかは隠せませんねえ」
「・・・・・・そのようですナ」
青年は不機嫌そうに答えたのち、照れくさそうに笑うのだった。