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青空夏影 面影は渓流に溶け入りて

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 しかし、今回は美沙までもがサツキに便乗したので、アヤメもそれほど重要には捉えなかった。
 アヤメもサツキの気持ちは良くわかった。
 彼女も少しだけ、旅行を楽しみ始めていた。
 だから、マコトに申し訳ない気持ちもあったが、ここは彼の頑張り所と捉えた。
 そして、アヤメも意気揚々とする二人の後に続いた。


 三人の少女が一人の哀れな男を見捨てた時、近くをある二人の女子高生が歩いていた。
「飛鳥、今度はこっちに行こうよ」
 おかっぱ頭の女の子が指を指して、後ろを歩くおさげの女の子に呼びかける。
「うん。じゃあ、行こっか、夏結」
 二人の少女は、三人とは逆の方向へと歩いていった。


 6の2、徐々に交差する二つの夏休み

 
(……ここはどこだ)
 俺は寺へと上がったものの、道に迷ってしまっていた。
「うーん」
 寺の庭園には、彼女達の姿はどこにも見当らない。
 今頃、向こうも俺を探しているだろうか。
 もう少し歩けば、そこで待っているかもしれない――そう思い、俺はトボトボと歩を進めたが、人がごった返す中に、彼女達を見つけることは困難を極めた。
 と、その時だった。
「夏結! あぶない! 前、前ー!」
「「え?」」
 誰かと声が重なったのと同時に、俺の下アゴに鈍い衝撃が走った。
「うごっ!?」
「痛っ!?」
 俺はそのまま後ろへと押し倒された。
 誰かが俺に勢いよく追突してきたのだ。
 顎を摩りながら見やると、一人のおかっぱ頭の少女が俺の上に乗っかっていた。
「いったーい」
 少女は頭を摩りながら言った。
「痛いのはこっちだよ」
「大丈夫、夏結? あ、あの大丈夫ですか?」
 白いブラウスを着たおさげの少女が、まず、連れを心配してから、俺に声をかけてきた。
「んもう。君がそんなところにボケッと突っ立っているからいけないんだよ」
「夏結、そんな言い方は……」
 夏結とよばれた少女の勝気なところは、どこかの誰かさんに似ていた。
「とりあえず、俺から退いてくれない?」
「あ……」
 俺が指摘すると、次の瞬間、おかっぱ頭の少女は顔を真っ赤にして、俺から飛び上がるように離れた。
「まったく……」
 俺はじんじんと痛むアゴを抑えながら立ち上がり、服についた砂利を払った。
「前を向いて走れよな」
「あんたもねー」
 おかっぱ頭の少女はぶっきらぼうな返事をしつつ、俺に向かって舌を出す。
「もう夏結ったら、そういう態度はだめだよ」
「飛鳥は黙ってて」
「あの、ごめんなさい。夏結には私からよく言っておきますから」
 飛鳥と呼ばれた少女は、この生意気な少女の保護者みたいに言った。
 おさげの少女の方が、しっかりしているようだ。
「あーあ、頭にコブができたらどうしよう」
 おかっぱ頭の少女が意地悪気に言う。
 やっぱりこいつ、誰かに似ているぞ。
 昔のサツキもこんな感じだった。
 でも、この少女はそれをもっと破天荒にした感じだ。
 で、まじめな子の方は、美沙ちゃんをよりお淑やかにした感じだろうか。
 生意気なおかっぱ少女は、おさげの子に連れられて去っていった。
 今日はとことんついていない。
「にぎやかね」
 聞き覚えのある声がして俺が振り向くと、そこにはアヤメちゃんが立っていた。
「アヤメちゃん。他の二人は?」
「あなたを探しているわ。さっきから姿が見えないから探しに来たの」
 さっきと言っても、けっこう前のことだ。
 どうせ、サツキ辺りが後で探そうとでも言ったのだろう。
 サツキはそれくらい清水寺を楽しみにしていた。
 もし、美沙ちゃんまでサツキに便乗したのだとしたら、ちょっとショックだ。
 もし、アヤメちゃんが探しに来てくれていなかったら、俺は立つ瀬がなくなっていたかもしれない。
「じゃあ、とりあえずみんなと合流しないと」
「いいえ、せっかくだから、いろんな所を見て回りましょうか」
 俺は彼女からの意外な提案に驚いた。
 でも、考えてみれば、彼女は美沙ちゃんならまだしも、サツキのテンションにはちょっと付いていけないだろう。
 それに、俺を見捨てる提案をしただろうサツキへのささやかな仕返しもできる。
 アヤメちゃんは「日暮れまでには、まだ時間はたくさんある」と言った。
 彼女がどういうつもりなのかはわからないが、俺はちょっとしたショートデートのように思った。
 二人と違って、友達意識の薄い彼女に、俺の鼓動は少しだけ早くなった。
 俺達は順路を辿って、清水寺を見て回った。
 途中で二人と合流できるかもしれないからだが、今はちょっとだけ後回しにしてほしいと思った。
 なぜなら、もっとアヤメちゃんのことを知れるチャンスでもあったからだ。
 彼女は今回の旅行のプロデュースのことをどう思っているのだろう。
 彼女が秘密を言うに値する者には、ちゃんとなれているのだろうか。
 清水の舞台を見た後、分かれ道に差し掛かった。
 階段を登るか、降りるか、そのまま進むかの道である。
 と言っても、階段の上の方は行き止まりのようだった。
 石段の上には神社があった。
 アヤメちゃんは迷わずにそちらに足を向けた。
「ここは何の神社なのかな」
「縁結びよ」
「え、縁結び?」
「そう、縁結び」
 彼女は悪びれる様子もなくそう言った。
 よく見れば、入り口のところに『縁結び』と大きく書いてあった。
 そこは真っ赤な漆に塗られた建物があって、人でごった返していた。
 何たって彼女は俺をこんなところへ連れてきたのだろうか。
 縁結びというだけあって、周りにはカップルや女の子達がたくさんいた。
「ねぇ、アヤメちゃん、ここって恋愛の……」
「縁結びとは言っても、恋人同士だけのものじゃないわ」
 俺がもじもじと聞くと、彼女からそんな答えが返ってきたので、俺は聞いた自分が恥ずかしくなった。
 アヤメちゃんの言うとおり、そこには家族連れや、友人同士で来ている人もいた。
「でも、多いのは恋愛なんじゃないかな」
「そうね」
 彼女はそれだけ言うと、それ以上、何も喋らなかった。
 ちょっと気まずい感じだったが、そう感じているのはたぶん俺だけだろう。
 長い順番を経て、俺達の番が近づく。
「神田君、五円玉あるかしら」
 そういえば、用意するのを忘れていたな、と俺が財布の中を漁ると、ちょうど五円玉が二枚出てきた。
 さっき買い物をした時に、お店の人がわざわざお釣りに入れてくれたようだ。
 俺は彼女に五円玉を渡した。
 賽銭箱にそれを入れ、二人同時に手を合わせた。
 俺が願ったのは、俺達のことだ。
 閉鎖が決まってからも、ずっと俺達は、俺達のままの友情であり続けられますように。
 その場にいない二人の分もそう祈っておいた。
「アヤメちゃんは何をお願いしたの?」
 神社の石段を降り始めたとき、俺は彼女に聞いてみた。
「知りたい?」
 彼女はあの時のように俺に聞き返してきた。
 また、「知るに値するなら」とか言われそうだと思っていた俺だったが、「そうね……会いたい人がいるの」彼女はすんなりと答えてくれた。
「会いたい人?」
「そう。私にとってとても大切な人だった」
 当たり前のことだが、彼女にも大切な人がいるのだ。
 彼女の大切な人とはどういう人なのだろうか。