ルーツ
宮崎幸子は、近頃の麻由が、時々憐れみの混じったような、寂しげな視線で見つめてくることに気がついていた。
自室にこもって読書をしながら、時々パソコンを打っている気配を感じている。大学を卒業して就職先が見つからないまま、バイトを続けている娘の将来が心配でもある。気軽でいられるだろうが、30歳を過ぎても交際している男性の気配すらないのは、気がかりでもある。もしかしたら、私から受け継いだ血が影響しているのかもしれない、と思うことがある。
幸子は明らかに、黒人とのハーフだからである。
今の時代と違って幸子の学生時代は、周りから浮いていてはいけなかった。日本人の中に混じっている外国人は好奇の目で見られ、通りを歩いているだけでも必ず人々は振り返って、珍しいものを見る目をしていた。黒人に対しては、それに蔑みの眼差しが加わる。
無論同級生からは、からかいの対象となった。白人に対してはむしろ劣等意識を抱いて、それほどのからかいとはならなかったのかもしれないが、黒人に対しては、彼らは優越意識を持っていたらしい。この違いは何から来ているのか、おそらく欧米の態度によるものであろうという結論を、自分なりに得たのである。
幸子は、自分の出自について知らされなかった。まだ1歳にもならない頃に貰われてきた。新しい父は牧師をしていた。転々と各地の教会を移動する生活だが、貰われてきたのは、門司市の日本キリスト教会に務めていた時である。
よく憶えていないが、夢の中に時々現れてきていた情景は、生みの母親らしい人に手を引かれて来た初めての教会で、幼いキリスト様を抱いたマリア像を、その母と並んで一緒に見上げている。
「マリア様が、幸子の将来を守ってくださるけん。新しいお父様、お母様が大事にしてくださるよって・・・これで、よかとよ」
実際その様に言っていたのかは分からない。おそらく、勝手な思い込みによるものだと思う。だが、その時の、その女性の声が今でも聞こえてくることがある。