それでもいつか遠くの街で
「なんなんだよ」
卓上のカレンダーを見た。見るまでもなく 年末のイベント クリスマスではない日だ。
モテる男のカレンダーによれば、23日は女友人と 24日は本命と 25日は雰囲気で 26日はおこぼれと…… と飲み屋のマスターが言っていたのを思い出した。
じゃあ、その前日の22日ってなんだろう?
そう考えている僕は、行くつもりなのか?と自問自答が始まった。
まだ、半月先のこと。
酔ったままシャワーを浴びた。
まだ湿った髪のままベッドに転がった… までは覚えていたが 気が付けば、外は明るく
無意識に掴んでかぶったつもりの布団は皺が寄っただけで 体は冷えていた。
「寒っ」
起き上がり、洗面所の鏡で見た僕の髪の毛は 自由を満喫しているかのようだ。
「こりゃ阿蘇…… だな」と指先を広げ、両手ぐしでかきあげた。
日が経つのは早いものでというか、歳の暮れにむかう街は どこも賑やかに慌ただしかった。僕自身も仕事の調整を始めていた。
街にはお決まりの曲が流れ、点灯されたイルミネーションが、いつもの和の景色を華やかに変えていた。居酒屋にクリスマスツリー。なんとも不似合いな小物も面白い。
店先のタヌキがサンタクロースの服を着て、和服の給仕のお姉さんにうさぎ耳が生えている。みんなおとぎ話に入り込んでいる。愉快なことだ。
僕もひとりの自由な時間を 愉快に送りたい。
付き合いの忘年会。仲間からの呼び出し。マスターとの語らい。飲むのは嫌いじゃない。いや 進んで飲みに出かけてしまうほど好きだ。気の合う女性と 差し向かいで徳利を傾けるなんて時間は永遠でもいいんじゃないかと。ひとりで飲むカウンタで 隣から聞こえてくる痴話げんかも べったりの甘い囁きも 酒のつまみと記事のネタにおいしい。
あれからも 二つほど記事を投稿した。
そのどちらにも彼女のハンドルネームがあり、ごく普通にコメントが書かれてあった。
きっとあの日は 彼女は何かがあって悪戯にコメントしたんだと思った。
気にすることはない。
そう思っていた。約束の、いや約束した覚えはないが、指定された日の前日の夜。すでに時計の針が その日となった深夜に就寝したときまではそう思っていた。
作品名:それでもいつか遠くの街で 作家名:甜茶