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それでもいつか遠くの街で

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当初は、十数行だけ書いた。
新規登録者とあってアクセス数は少なくはなかったが、記事に対してのコメントは ほとんどなかった。
「こんなもんかな?」
僕は 登録会員の記事を読みに行った。
たっぷりとお気に入りさんを抱えている会員の記事は 面白かった。寄せられたコメントに 黄色い声が咲いていた。正直、羨ましい。
僕も紛れてコメントを書き残した。すると、翌日コメントの返事が届いていた。
『男の人からコメント貰うなんて珍しいです。よろしく』
再び記事に飛んでみると、匿名で書かれているハンドルネーム(HN)がほとんど女性を思わせる名前だった。これにも羨ましさが込みあげた。

それから、今に至るまで 何か話題を見つけては 僕は書いてきた。
僕の記事にも たくさんの人が立ち寄ってくれるようになった。
僕も あの男性会員と変わらぬくらい 会員のお気に入りさんリストに登録された。
仕事の失敗に 笑い。
巷の噂に 関心。
旅の思い出に 共感。
飲み屋のエロ話に 興味。
自作の創作話に 感動。
さまざまに寄せられるコメントは 僕の気持ちを高ぶらせた。
とくに 男と女の話は 人気があった。
自身の経験を包み込んで 装飾を施して エキサイティングに ロマンチックに 下品に 上品に 愛やいつくしみの感情……艶味は 愛や恋を充分知ってきた中高年には 美味しい話題に違いない。書いている僕自身が 艶味に深い想いを抱かずにはいられないものだ。 

歳月が経つにつれ、お馴染みさんといえる会員もできてきた。
見知らぬ同士の仲の良さというものの快感を知った。
綴られる文字の中に 近づけた感情が見え隠れする。
言葉を取り違えて怒られたり、不機嫌になったりして 数日疎遠になったこともある。
もしかして これって……と大なり小なり 恋心と下心の勘違いもあったとしても パソコンの前で にやけ顔が戻らないことだってあった。
お互いのその姿が 文字からホログラム映像のように浮き上がって見えてくるようだ。

作品名:それでもいつか遠くの街で 作家名:甜茶