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それでもいつか遠くの街で

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『こっちに来ませんか?』

僕の書いた呟き日記のコメント欄にこんな書き込みがあった。
「黄泉の国からの誘い文句でもあるまいし、黄泉?読み…… まあ無関係でもないか」


三年程前、僕は、仕事の息抜きとばかりにパソコンでSNSサイトを検索していた。
当時、付き合っていた彼女がいなかったわけでもないが、飲み仲間との酒の席で「俺の会社の後輩がさ、出会い系で付き合い始めたんだと」という話から「そんなにうまくいくことか?」と半信半疑。興味津々。酒の肴には ちょうどいい柔らかさの話題で楽しい場になった。
だが暫くは そんな話もその場限りの盛り上がりだったと とくに興味も湧かなかった。
しかし タイミングと言うのは不思議に合うもので 付き合っていた彼女が 後輩の男性の相談に乗っているうちに そちらに興味の針が傾いてしまったらしい。
連絡をしても「残業」とか「体調が悪い」「学生時代の友だちと会う」とかのメール返信があり、僕との時間が減り始めたのだ。結局、自然消滅のように連絡が途絶えた。

そして、ある日。ふと思い出したのが出会い系サイト。
どれもお洒落なネーミングのサイトが画面に並んでいたが いまいち心が動かなかった。
彼女への未練かと…… それとも違う。
どれもが 書き込みするだけの掲示板。それに なんとなく子供っぽく感じた。
少しは、文章も書けると自負していた僕は、自分の気持ち半分、誰かを喜ばせたい気持ち半分で書いてみたかった。
それに 僕は やんちゃと落ち着きと兼ね備えた年頃じゃないかと……
四十七歳。
年が明けたら また歳をとる。付き合っていた彼女とは別れたし、も少し前には妻とも別れていた。いわゆる『独身貴族』? 
行きつけの飲み屋のマスターには『やもめのジョナさん』なんてあだ名も付けられた。

「マスター やもめってねぇ…」
別れただけで 妻は永眠したわけじゃないとマスターに言ってみたが「ひとりになりゃ やもめだ」と笑い飛ばされる。
開店する前、トラック野郎していたマスターは そんな映画がお気に入りだったようだ。

数日後。【おとなの好季心広場】というSNSのサイトを見つけた。

【おとなの好季心広場】
――大人だって 好奇心は失くしたくない
――人生のいい季節を共有してみませんか
――きっと広がる世界が人生をもっと楽しくするでしょう
――中高年の為の憩いの広場です

そんな挨拶文に(何故だろう?)興味を持ってしまった僕は 登録手続きをした。

作品名:それでもいつか遠くの街で 作家名:甜茶