影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編
そばにいて
温かい。優しいぬくもり。まぶたを透かしている光の温かさにゆっくりと目を開ける。すがめた瞳に飛び込んできたのは、強烈なオレンジ色だった。
どこだろう、ここは。ひまわり畑だ。段々畑のように広がる広大なひまわり畑の向こうは、オレンジ色に照らされた海が見えた。水平線の彼方に、夕日が沈んでいく。
(夕焼けだ。きれいだな・・・)
紫暮はその光景に魅入る。美しい。まるで絵葉書の光景みたいだ。空の色はオレンジと、そこから派生するグラデーションに彩られている。ピンク、菫色が混じる美しい色合い。ひぐらしが鳴いている。海はきらきらと夕焼けを反射して輝いていた。
ここはどこだろう。見たこともない場所だ。
ふと気がつくと、紫暮の右手がささやかな体温に包まれていた。隣を見れば、少女が手を繋いでいた。小さい子だ。紫暮の腰の下あたりに頭がある。
「・・・きみ、誰?」
頭の後ろで一つにくくった髪が、さらさらと揺れている。尋ねた言葉に返事はなかったが。
見つけてね、と少女は海を見つめたまま言った。だから表情は見えない。囁くような小さな声だった。
早いおいで
・・・おとうさん
「・・・きみは誰だ、」
少女はずっと海を見つめている。紫暮の言葉など聞こえていないようだ。
お父さん
待ってる・・・わたし、ここでずっと・・・
日が沈んでいく。夜が来るのだ。オレンジはピンクへ、ピンクはラベンダーへと色が変わっていく。少女の姿は消えている。紫暮は一人取り残される。静かな夏の終わりが、ゆっくりと風のなかに溶けていく・・・。
これほど美しい光景は見たことがない。
これほど寂しい光景は見たことがない。
ここは寂しい。だから美しいのだ。こんなところに一人ぼっちでいるのは、とても辛いのではないか・・・。
作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白