影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編
背中に隠した七星が指を指したのは、滑り台の佇むそばにある木陰だった。そこには、黒い影が立っていた。大きい。長い影が伸びている。微動だにしない人影。
「時計男・・・」
頭から靴の先まで黒ずくめだ。山高帽、裾の長いコートで全身を包んで炒る。沈みかけた日、徐々に塗りつぶされる闇の中、まるで彫像のように動かない。
緊張で忘れていた呼吸を思い出すと、口の中がからからに渇いていることに気づいた。紫暮は注意深く時計男を観察したまま、素早く腕時計に目を落とす。
「時間・・・六時四十五分だよ」
答えてやるとどうなるのだろう。そんな興味に抗えず、答える。
いそがないと・・・
迎えに・・・
脳に直接、声が響いてくる。離れているのに、くぐもった声が聞こえてくる。七星にもその声が聞こえているのだろう。驚きと恐怖で紫暮の制服のシャツをぎゅうっと握り締めてくる。
「何か・・・困ってるのか?」
影は動かない。緊張で声がかすれる。
「探しているのか、何か・・・」
密封された真空の中にいるような感覚。手足が痺れてきた。
「っ・・・!!」
返事の代わりに返ってきたのは、突き刺さるような視線。錐の一突き、そんな痛いくらいの衝撃があって、紫暮は一歩後じさる。
・・・わたしの、
耳のすぐそこで声がした。体が恐怖で竦む。動けない。指先さえ。
わたしの こどもは どこですか
囁きが、全身に張り付く。ぐらぐらと視界が揺れている。その視界が一瞬真っ黒になる。手が、伸びてきた。紫暮の顔を覆い隠すような、どす黒い手が。
あ、と思う間もなく、視界と意識が同時に途切れた。
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作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白