影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編
「紫暮くん」
清香と挨拶を交わしたあと、穂積が柔らかな口調で紫暮を呼んだ。
「は、はい」
「秋が終わって・・・そうだなあ、冬休みになったら遊びにおいで」
紫暮の表情から、安堵に緩んだように緊張が抜けていく。瑞にはそれがはっきりわかった。
「伊吹も一緒に、みんなで待ってるから」
紫暮が笑った。
「俺も・・・楽しみにしてます」
発車を告げるベルが鳴る。深々と頭を下げる清香と、その隣で少しだけ口元を緩めた紫暮。こみ上げてくる期待や喜びを、なんとかこらえようとしている顔だ。彼のそんな表情を見て、瑞は思う。ああ、年相応の顔も見られてよかったな。こいつも、嬉しいときは笑って、悲しいときは泣けばいいんだ。
まだまだ先の未来を憂う間もないくらい、おまえが迎える毎日は楽しく、喜びと驚きに満ちているのだから。
「じゃーな紫暮」
「ん」
「七星ちゃんと付き合うことになったら連絡せえよ」
「はあ!?」
何か言いかけた紫暮の前でドアが閉まった。手を振って席に着くと、穂積が嬉しそうに笑っている。
「ニヤニヤしてんなあ」
「冬休み、賑やかになるなと思って」
「そーだネ」
楽しみが一つ増えたな。そんな愉快な思いで帰路につく。
作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白