影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編
「瑞・・・」
「目を開けろ。そして見るんだ。娘はずっとそばにいた」
厳しい口調と裏腹に、瑞の目は、悲しみと優しさがないまぜになったような穏やかな色をしていた。
「お前が、気づけなかっただけなんだよ」
静かに影が立ち上がる。そして、紫暮は見た。影の真っ黒い手の先に、小さな指先が絡められているのを。
「あ・・・」
娘か・・・?
「いつも、ちゃんと隣にいたんだぞ」
瑞の言葉に時計男が屈みこむ。そこにいる娘に視線を合わせるようにして。屈んだ影の後ろから眩しい夕焼けが突き刺さり、紫暮は目を眇めた。
「・・・あ、」
うっすらと目をあけると、そこはあのひまわり畑だった。淡いピンクの夕焼けが、遠くの海の水面を反射して輝いている。あたたかな、優しい風。その心地よさに、全身から力が抜けていくような感覚。
ここは彼岸の場所。
「ああ・・・よかった・・・ちゃんと、」
ひまわり畑を行く二つの背中。背の高い男と、小さな少女の後姿が、遠ざかっていく。
あの二人の手が離れることはもうない。ちゃんと一緒に、ゆくべき場所へ迎えるはずだ。
「あ・・・・・・」
振り返った二人の顔は、逆光で見えない。少女は手を振り、大きな影は静かにこちらに頭を下げたのだった。
作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白