影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編
「・・・気がついたら、夕焼けの中にいた」
滔々と語る七星の言葉に違和を感じ、紫暮は彼女を凝視する。
「そして・・・わからなくなった・・・」
「矢野・・・?」
彼女の目が、先ほどと違う。虚ろな瞳に夕焼けが映りこみ、視線はどこを見ているか定かではない。自分の意思ではないものに喋らされているのだ。
「ここはどこなんだろう・・・どうして・・・いつも夕焼けなんだろう・・・ずっと一人で、あるいているけれど・・・どこへ向かうつもりだったのか、もう・・・」
矢野、と肩を掴んで揺さぶると、糸が切れたように倒れこむ七星。きつく目を閉じて苦しげだが、呼吸はしている。
「・・・思い出したか?」
紫暮は影に語りかける。影はうごめき、それはまるで恐怖に震えているようだった。
「本当はもうわかってるんだろう?ここに娘はいないんだ。どこを探したって、もうここはあんたと娘の世界じゃない」
・・・・ わたしは 死んだのか
低められた悲しい声が、紫暮の胸を突く。悲しい影が泣いている。
「――さあ、受け入れられないことから逃げるために潰した目を、もう一度こらせ」
唐突に響く明瞭な声。瑞だった。いつの間にか紫暮の背後に立っていた。
作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白