影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編
「紫暮くん・・・!」
「無理だよ、どう言えっていうんだ・・・このひとは、自分が死んで娘が残されることを認められない。だからきっと、娘の死も受け入れない。救いなんてない・・・この夕闇の中で、娘が見つかるまで彷徨うしかないんだ・・・」
「でもあの子は待ってるんだよね?紫暮くんがみたひまわり畑で!」
七星の強い声。紫暮は思わず彼女を振り返る。
「ねえ、覚えてる?娘さんを迎えにいく途中・・・何があったか」
「矢野、」
紫暮の制止を振り切って、七星は時計男の前に立つ。
「・・・思い出そうよ。そしたらきっと、娘さんに会えるから。ね?」
七星の声は震えている。怖いのだろう。だけどそれ以上に救ってあげたいのだろう。本当は怖がりで、痛い思いだってしているのに、それでもここまで紫暮とともに夕闇に立ち続けてきたのは、その思いがあるからこそなのだ。
「道路・・・に、いたの?そうだよね?」
自分が知りうるすべての情報を、彼女は必死に繋ぎ合わせようとしている。
「お迎えに行く途中だった。保育園かな・・・あなたは急いでて、もうすぐ日が暮れちゃうから、娘さんが寂しがってるって思ってたかもしれないね」
影は動かない。だが、七星の声に耳を傾けているのは紫暮にもわかった。この止まった世界の中で、彼女の声だけがクリアで現実味を帯びている。夕焼けにとけてしまいそうな曖昧に揺らぐ心を、繋ぎとめるかのように。
「・・・あなたは、道を、渡ろうとしたのかな。もう日が落ちる。急がなくちゃ。だけど」
ズク、と影が動いた。膝を折るような動き。警戒する紫暮をよそに、七星はひるむことなく語り続ける。
「・・・だけど、あなたの前に、車が飛び出してきた」
影は屈みこむようにすて地面にうずくまる。
作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白