影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編
現実世界が裏返り、この世でないものが姿を現す一瞬。
逢魔ヶ時が、その顔を覗かせたのだ。
そしてこの、限りなく永遠に近い一瞬には、あちらがわの住人が姿を現す。
黄昏。誰そ、彼。顔の見えないこの者は、人か魔物か・・・。
「時計男・・・」
禍々しい夕日を背に、その黒い影は唐突に現れた。激しい逆光で、すべてが黒い。大きな影が、大木のように立ち尽くしている。
・・・・いま 何時 です か
搾り出すような声が、頭の中に響いてくる。感情を一切排除した声なのに、底知れぬ絶望を感じる。
死してなお彷徨う、怪人の声。逢魔ヶ時に捕われた、哀れな虜囚。
「・・・六時になる。だけどもう、娘を迎えに行く必要はないよ」
緊張した声で答える。何をどう言えば正解なんだろう。突然死んだ者に、死んだことを理解させるのは難しい。そして愛する娘が死んだことを納得させることは、きっとそれ以上に。
「・・・あんたの時間はとまってる。娘のもだ。あんたの持ってる時計がすべて止まっているのは、そのためだ」
影は動かない。微動だにしない。紫暮の言葉に対する感情のリアクションもない。これでいいのか?これで救えるのか?悲しみを癒せるのか?死んだこともない、失ったこともない自分に。
作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか2 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白