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奥付③ 電動自転車の女

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女は工場の鉄柵を再び乗り越え、
バッテリーの蓄電池がすでにない
見た目だけの電動自転車を力一杯漕いでアパートに急いだ。

川沿いを走り、橋をわたる。
ハンドルを握る両手の甲が冷たい。

薄い紺色の水彩絵の具で描いた
ような空に、街灯の明かりが
灯りだす。
冬の冷たい空気のせいで
街灯の輪郭がクッキリと映し出され
季節を感じる。

商店街の人混みをかき分け
やっと家に着くと、台所の明かりがついていた。

「ごめんね! 遅くなっちゃった」

「お米、研いでおいたよ」

綾香の息子、翔太はまだ小学校6年生だが、女手ひとつで頑張る母の姿を見て率先して家の手伝いをする、できた息子だ。

「翔太、明日さぁ、母さん仕事ちょっとだけ残業しなきゃいけないんだけど大丈夫かな? 7時までには帰るから」

「大丈夫だよ! レンジでチンでしょ?」

「ごめんね」

綾香は後ろめたい気持ちで一杯だった。翔太を妊娠中に脳梗塞で旦那を亡くしてから、もう2度と恋に落ちることなど無いと思っていたし、生きていくだけで精一杯だった。

それが一年前、同窓会で再会した
小学校のクラスメイトと恋に落ちてしまった。

作品名:奥付③ 電動自転車の女 作家名:momo