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奥付③ 電動自転車の女

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翌日、翔太を学校へ送り出し、夕飯の支度を済ませ身支度をしていると
何の連絡も無く、突然母が訪ねて来た。

「母さん、私、出掛けなきゃいけないの」

「あら、一緒にお昼でも食べようと思ってたのに」

「ごめん、約束しちゃってたから」

「その約束、断っちゃいなさいよっ」

綾香の母はいつも気ままで勝手だ。
自分中心に全てが回っていると勘違いしている。
それは病気のせいだと思えば許せるが、許せるのは娘だからだろう。
当然彼女に友達はいない。
時計の針は11時を指そうとしていた。

「新宿駅まで一緒だから」

コタツに入り自分で買ってきた
ミカンを食べ始めた母親に
怪訝そうな顔を見せると、
追い返す気かと逆切れしながら渋々腰を上げた。

坂道を少し急ぎ足で歩くと

「あんた、ついていけないわよ。先に行って!」と息を切らせながら言う母親に苛立ちながらも同じ歩幅で歩く。

ホームの階段も使わず、エスカレーターも追い越し側には乗らない、母と同い年くらいの人でも、もっと元気な人は沢山いる。

母をシルバーシートに座らせ、目の前に立ち窓の外を眺めながら
今日は悪いことが起きる予感がした。

母を思いやることができない。
綾香は自分でもひどい娘だと思ったが、何十年もの間、
あんたは私の人生に於いて全ての悪の根源と
ずっと言われ続けてきたのだ。
本人同士にしかわからない、
母娘の関係がある。

「じゃあ、母さんは、この通路を真っ直ぐだからね」

「わかったわよっ! 真っ直ぐでしょ、わかるわよ」

綾香は母と分かれて慌てて総武線のホームへ向かい、発車間際の下り電車に飛び乗った。

しばらくすると携帯電話のバイブがブーブー鳴った。
見ると母からだった。
放っておいたが鳴り止まない、仕方なく出ると

「あんた! まっすぐ行けって言ったじゃないっ!」

「今、電車の中だから…」

「まっすぐ行ったら外に出ちゃったわよ! 全く!」

母の怒りはおさまらず、電車の中にまで聴こえる程の大きい声で叫びまくっていた。

「ごめん、切れるよ」

いつも、いつもこんな調子だ。
母と会うと、必ず何かが起き、半年分くらいのストレスが
のしかかる。

待ち合わせ場所は、高円寺の北口のパン屋の前。
彼はまだ来てなかった。

綾香は駅のトイレに戻り、歯をゴシゴシ磨いた。
ストレスが溜まると歯を磨く癖がある。
それで多少は気分が優れるのだ。

母のようになりたくない…ずっと、反面教師で生きてきた。
しかし、いつか鏡のように自分の中に母の姿を見ることが来るかもしれない、そんな恐怖がいつもあった。

パン屋の前に戻ると彼が待っていた。

作品名:奥付③ 電動自転車の女 作家名:momo