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奥付③ 電動自転車の女

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男は出口から出るとクシャクシャと領収書を丸めて
ポイと投げ捨てた。

道幅の狭い歩道の真ん中を
前から歩いてくる人を避けることもなく
急ぎ足で駅に向かう。

地下鉄に乗り5つ目の駅で下車し
地上に出た。

大通りからすぐ脇道に入り緩やかな坂道を
つま先に少し力を入れながら下って行く。

人通りが少なくなると川が流れている。
山岸恵一はこの川を目指し地下鉄に乗ってきたのだろうか。

袋から本を取り出すと
ビリビリと雑誌から破り始め、橋の欄干から
まるで桜吹雪のように細かくしたそれを
無心で撒きはじめた。

「我慢が足りないよ、ありえない」

今朝、恵一が妻から投げられた言葉だ。
大手商社をリストラされてから3か月。

最初は「二度目の人生だよ! パパもやりたい仕事見つけて再出発!」
なんて、優しい言葉をかけてくれていたが
それはもう無い。

50過ぎた男の再就職は苦しく地獄の日々だった。

「すみません」

恵一が振り向くと、電動自転車に子供の椅子をくっつけ
髪を後ろで一つに束ねた女性が声をかけてきた。

どうせ川を汚して注意されるのだろうと
予想した。

「その漫画も捨てるんだったら、下さい」

女は積み重ねた本の、今一番上にのっている漫画を
指さしてニコリと笑ってそう言った。

作品名:奥付③ 電動自転車の女 作家名:momo