奥付③ 電動自転車の女
「カバーいらない」
「コミックのビニールはおとりいたしますか?」
男は急いでる感を
表現するため再度、早口で答える。
「そのままで」
さらに洋子はマニュアル通りスキャンしながら尋ねる。
「ポイントカードはお持ちでございますか?」
男はスマートフォンをいじる手を止め財布からポイントカードとクレジットカードを取り出し
「クレジットで」と、捨て台詞のようにぶっきらぼうに言った。
洋子は思った。
この男、漢字が書けない私に多分
イラつくだろう。
心の狭そうな男だ。
書店員が出版社の会社名を書けないなんて、とんだ恥だとほんの数分前まで思っていた洋子だったが、
この男の態度に思い直した。
講談社?どこの出版社?そう
思うことにしよう。
絶対にありえない話ではある。
洋子はメモとペンを男の前に差し出し、
「こちらに領収書のお名前を…」
洋子が言い終わらないうちに男がイライラしながら言った。
「ちっ、自分で書くからっ!貸して!」
男は俺様の会社名が書けぬとは何事じゃ!と眉毛を吊り上げ領収書をとりあげた。
男は本の入った袋をもぎとるようにしてスタスタと出口に向かった。
数分間の呪縛は解けたが
メタボな店長は後ろできっと
マイナス評価をつけていただろう。
洋子は隣のレジの女の子に尋ねた。
「ねぇ、ねぇ、幻冬舎ってこれであってる?」
作品名:奥付③ 電動自転車の女 作家名:momo