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海野ごはん
海野ごはん
novelistID. 29750
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ひらひらの夜だもん・・・

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「さっきの話し・・ほんとか?」慎一は由里子の顔を見て言った。
「ん、なんの?」
「危険な男と寝たいって言ったの」
「あら、冗談よ。本気にしたの?こんなおばさんじゃ嫌でしょ?やりたいの?」
「馬鹿にするな。聞いただけだよ」
「ほんとよ。女は危険な男に抱かれてみたいと思うの。私だけかもしれないけど」
「なんでだ?」
「なんでだろうね。糞まじめに生活やってると心の中の虫が疼くんだわ『やめてやる~』ってね。みんな壊したくなる衝動に駆られるの。だけど自分じゃ出来ないし、そん時に白馬の王子じゃなく真っ黒な馬に乗った悪い奴にどっか連れて行って欲しくなんのね」
「今の生活が嫌なのか?」
「どうだろね・・・あんまし気に入ってはないけど」
「俺もだ・・」
「そう?」由里子はまともに初めて慎一の顔をちゃんと見た。そして
「みんな、そうなのよ。満足してる奴なんていないわ。だからうちの旦那も帰って来ないのよ」と言った。

店の中は相変わらず嬌声が飛び交っていた。うるさ過ぎる程、孤独は増して行く。
ガラガラと店の引き戸が開け閉めされる中、二人の警官が入ってきた。一通り見回すとまた引き戸を閉め引き返して行った。由里子は慎一を見た。慎一は平然とビールを飲んでいた。
「やばかったね」由里子が言った。
「なにが?」慎一は前を向いたまま言った。
「警察来たじゃん」
「関係ね~し」
「ほんと?」
「ああ・・」
それから二人また無口でお互いに自分の酒を飲んだ。

「わかるんだ。あんた強盗犯でしょ。昔ヤバイことする男と会った時、妙に落ち着いていたもの。男は度胸が座ってんのね。女じゃ出来ない」由里子は少し酔った口調で慎一に言った。
「姐さん、違うって言ってるだろ。それに、そんなこと言ってると勘違いされるじゃね~かよ」
「いいの、いいの。今夜の私の男は強盗犯・・」
「姐さん・・・やめろよ。酔ってるな」慎一は周りを伺い、由里子をどうしたらいいもんか考えた。
「姐さん、家は近くって言ってたよな。泊めてくれる?」
「あらっ、やっとその気になってくれたの。ありがとね、こんなおばさんに」
由里子は完全に酔っていた。いつもこの調子で男を誘うのか知らないが、どこか雰囲気のある由里子に慎一は惹かれていた。