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海野ごはん
海野ごはん
novelistID. 29750
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ひらひらの夜だもん・・・

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「あんた・・・飲みなよ」
先ほどと打って変わって由里子は片手にタバコをくゆらせ、片手に徳利の首を掴み、慎一にすすめてきた。
「そうか・・お猪口がなかったね」
そう言うと、由里子は自分が飲んでたお猪口を慎一に差し出し、酒を注ぎ入れた。
慎一は黙って、そのお猪口で飲み干すと、また差し帰した。
何か言い出すかと思ったら、今度は由里子は何も言わずボォ~ッと前を向き、煙だけを相変わらず漂わせていた。慎一も何も言わず前を向いたままビールを飲み、忙しく働く厨房の動きを目で追った。
黙って酒を飲んでいるとまたお互いの孤独が顔を出す。
今度は慎一から声をかけた。

「あんた美人だな・・・」
驚いたように振り返った由里子は慎一の顔を見て、にっこり笑い
「ありがとう・・・今じゃ美人度も減ったけどね」と言った。
「ずいぶんもてたんだろ?」
「昔はね。商売だし、笑顔振りまいてたから」
「どこにいたんだ?」
「あんたが行けない様な所。座るだけで一万円」
「ふ~ん、俺と関係ない世界だな。そこで旦那見つけたのか?」
「・・・・まあ、そういうこと」
「で、今は幸せなのか?」
慎一の質問に反応した由里子は、慎一の顔を改めて覗き込むように見て
「あんた、若いくせに昔の彼氏とおんなじこと言うのね。女が不幸せだったらいけない?」
「・・・何か気に障ったか?ごめん・・・」
「・・・いや、いいよ。幸せか不幸せか自分でもわかんないし」

お飲み物のご注文はいかがですかと聞いてきた店員に慎一はビール、由里子はぬる燗を注文した。
それを機に二人の会話は途切れた。
また喧騒の中で孤独を感じる。慎一はもしかして隣の女性も同じ気持ちなのかと思った。
途切れ途切れの会話をつなぎ合わせると、どこか似ているのに気がつく。
慎一は彼女の方に体を向けると

「お姉さん・・・つごうか?」と言って、徳利を手に取り傾けた。
「あら、やさしいのね・・・ありがと」由里子は両手でお猪口を持ち、慎一が注ぐぬる燗を貰った。


小さなテレビからニュースが流れていた。誰も見てはしないがカウンターの一人客用なのだろう。
コンビニ強盗がつい先ほど発生したと伝えている。犯人は逃走中といい身長175cmぐらいの男で黒い皮ジャンを着ていたと言っている、場所はこの近所だった。
由里子が慎一を見た。
「あんたがやったの?」
「まさか、黒い皮ジャンってどこにでもいるし」
「そう?やばいから脱いどきなよ。いろいろ、聞かれるよ」
「それもそうだな・・」慎一は皮ジャンを脱いで丸めてカウンターの下に置いた。
周りを見渡すと誰もニュースには関心ないらしい。由里子は椅子を慎一の方にずらし距離をつめた。
「こうやって二人でいれば疑われないから」
「ばかな・・やってないって言ったろ」
「いいのよ。わかるんだ。危ない雰囲気出してるもん」
「姉さん、それは勘ぐり過ぎ、そういう男が好きなんだろ。残念ながら俺はそんな男じゃない」
「で、いくら奪ったのさ?」
慎一は由里子のテレビドラマみたいなセリフに笑った。

「もしも、俺が犯人だったらどうする姉さん」
「寝ちゃう」
「はっ?」
「危険人物と寝たことないから、寝ちゃう。誘う。・・・いや?」
くくくっ・・慎一は下を向いて笑った。
「どういう頭の中身してんの。やっぱ、普通じゃないね」
「そんなにおかしい?」
「ああ、そんな女はいない」
「ここにいるでしょ。あんたが思ってるのと女は違うのよ。まあ、だから一人で飲んでるんだけどさ・・」
「・・・・ふん、からかうのはやめろよな」
「あら、せっかく味方してるのに。じゃ警察呼んで来ようかな」立ち上がりかけた由里子を慎一は服を引っ張り止めた。
「あら、やっぱりあんたが犯人?」
「違うって言ってるだろ。警察が嫌いなだけだ」
「・・・私も好きじゃないからやめとくわ」由里子は笑った。
まあ、飲もうかと言って由里子は空になった徳利を持ち上げ、再度注文した。もう2本も空いている。