影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編
「大奥様、矢野さんのお母様がお見えです」
「おおきに。親御さん、きっと心配してはるわ。七星ちゃん、立てる?」
「はい」
事情を説明しに、七星を連れて部屋を出ていく清香。彼女に任せておけば心配はなさそうだ。
「あの、紫暮くん・・・」
呼ばれて振り向くと、七星が小さく笑った。
「いろいろ、ありがとう・・・」
「いや、いいけど」
「また、明日ね」
「ん」
小さな背中が廊下の角を曲がるのを見送ってから座敷に戻ると、瑞が笑っていた。
「・・・何笑ってる」
「いや?紫暮がちゃんと女の子に優しくできる子だってわかって安心してた」
ぽん、と大きな手が頭に載せられる。かと思ったらそのままぐいぐい頭を押された。
「やめろっ背が縮むだろ!」
「縮めー縮めー」
「ぐぬっ・・・おまえ何がしたいんだよバカ!」
悪質ないやがらせから逃れ、瑞の頭をはたく。
「男女平等って言うけど・・・女の子ってやっぱり男とは違う生き物なんだぞ」
「はあ?」
「強いもんが、守ってあげにゃならん。清香だってな」
しみじみ言ったあとで、瑞はどかっと座布団に座る。
「で、時計男ってどんな話だって?」
真顔になった瑞に、学校で聞いた話を伝えてやる。ふうん、と気のない相槌を返してきた瑞。つまらないと感じたようだと思ったが。
「噂にはもとになった話があるだろ」
ただの噂ではないとでも言いたいのだろうか?そう尋ねると瑞は頷いた。
「一概に、作り話とも言えないのじゃないかな」
「どういう意味だ」
「死亡時刻を集める時計男は存在しなくとも、誰にともなく時間を聞いてさまよい歩いていた男がいたのかもしれない。いまじゃないいつかの時代で。その事実が、想像や興味本位といったものによって肉付けされ、いま語られる時計男が誕生したのかもしれない」
都市伝説や怪談話が生まれるには、それらを想像するだけの材料が存在しているのだと、瑞は言いたいのだろう。
「気をつけろよ」
それだけ言うと、瑞は行ってしまった。
気をつけろ?不審者に?それともその「材料」に?いまいち、瑞が何を警告したいのかがわからない。
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作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白