影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編
「紫暮が女の子連れて帰ってきたって?」
「やかまし瑞。女の子のおる部屋にノックもなしに入るんやないの」
連れ帰った七星が、清香に手当てを受けているところに瑞がやってくる。やけに嬉しそうな顔をしている。
「いらっしゃーい」
「・・・瑞、静かにしろ」
「かわいい。チッサイ」
「もう出て行けってば」
「お茶持ってきたんだってば。穂積は煎れてくれた。落ち着くからって」
にやにやしている瑞を睨みつける。
「怖かったやろ。女の子の綺麗な足にこんな傷つくって・・・そないな変質者、さっさと捕まえて首根っこしめて、大文字焼きに放りこまなあきまへんな」
「そうだな清香。ついでに清水の舞台からつき落とそう」
「まだぬるいくらいや」
怖すぎる。
しかし、七星は落ち着いたのか、清香と瑞のやりとりに小さく笑みを浮かべている。安心しているようだ。
「ほんで、何聞かれたって?時間、やったかいなあ?」
「・・・いま、何時ですか、って。突然、後ろから・・・」
遭遇した場面を、七星は繰り返す。
「気配も足音も感じなかった。機械の音声みたいな・・・声だった・・・女でも、男でもない・・・」
振り返ったすぐそこに、真っ黒なコートを着た何者かが、柱のように立っていたのだという。そこで悲鳴をあげて逃げようとしたのだが、足がもつれて転んだのだという。紫暮が駆けつけたときにはもういなくなっていたと、彼女は語った。
「時計男やて。また妙なもんがうろついてるんやねえ」
「世の中おかしい。あ、冷めないウチにお茶どうぞ。粗茶ですが」
「あ、ありがとうございます・・・いただきます・・・」
七星が静かに茶をすする。熱いお茶は、彼女の心を静かに落ち着かせていくようだ。おいしい、と小さく囁くのが聞こえた。
(矢野の悲鳴を聞く前に感じた、あの違和・・・なんだったのかな)
和やかになった座敷の中で、紫暮は一人考える。時間が止まった異世界に放り出されたような感覚・・・。指先が冷たくなるような、得体の知れない恐ろしさ。
お手伝いさんが襖を開けて、紫暮は我に返った。
作品名:影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編 作家名:ひなた眞白