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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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影ふむ鬼子は隣のだれか1 神末一族番外編

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放課後。部活は不審者騒動のせいで早々に終了、校門に立つ教師らに監視されるようにしながら、紫暮たちは校門をくぐった。

「区民会館の弓道場、借りれるだろ。このあと行こうぜ」
「だめだ、今日は閉館日」
「部活の時間短くちゃ、ろくに練習できんよなあ」
「来週二年だけの練習試合あんのにな」

部員は多く、的前に立つ時間は限られているのだ。紫暮は他の部員とともに、満足に練習できない不平を口にしながら帰途につく。長い弓を持つ数人の影が、長く伸びる帰り道。

(夕焼け・・・今日はすごいな)

目に痛いくらいの、見事な夕焼けが町を染めている。強烈で、毒々しいオレンジ。沈みゆくそれは、少しずつ夜をつれて来るのだ。

「じゃあな」
「不審者に気をつけてー」
「おまえらもなー」

不謹慎な別れ言葉を残して、一人、また一人と友人達が家に帰っていく。

「じゃあな紫暮」
「また明日」

紫暮の家は夕日の沈んだ山の方角だ。学校からは一番遠い。最後はいつも、一人になる。

商店街を過ぎる。新興住宅地を抜けた先にある、鎮守の森を見下ろす山に、須丸の屋敷はある。

昔からある住宅街に差し掛かると、街灯の灯りが柔らかく灯っていた。オレンジと菫色の交じり合う空の下を歩き続けていた紫暮は、ふと違和を感じて立ち止まる。

「・・・?」

おかしい、ひとの気配がない。
住宅街だというのに、車どおりもなければ、通行人もいない。道の脇に立つ多くの家には、ひとつも灯りが灯っておらず、静まり返っていた。風も、やんでいる。

紫暮は立ち止まる。歩いているうちに、どこか見知らぬ世界に迷い込んだような不安感が、胸を満たしていく。なんだろう、これは。知っているはずの町が、いまは上手に真似をした、まがいもののように思える。

(・・・なんだ、この感覚)

空。黄昏。夜がくる前に訪れる、本当に一瞬だけの、昼と夜とが交じり合う世界で、紫暮は一人で立ち尽くしていた。

そのとき。

「キャーッ!」

静寂を破る悲鳴がした。紫暮は思わず駆け出す。すぐそこにある児童公園からだった。
車止めを飛び越え、砂場を越えると、ブランコのそばで誰かが屈みこんでいる。

「・・・!矢野?」
「し、紫暮くん・・・!」

制服姿の矢野七星だった。カバンがそばに落ちている。涙をためた目は怯えきっており、歯がかちかち鳴っている。

「何があった」
「と、時計男っ・・・いま、わたし、っ、時間、聞かれて・・・」

時計男?例の不審者に襲われたのか?

「そいつは?逃げたのか?どっち行ったんだ」
「わ、わかんない・・・怖くて、大声あげて、目、つぶってたからっ・・・」

まだ近くにいるかもしれない、と駆け出そうとした紫暮だったが。

「いや、一人にしないで!」
「おい・・・!」

引き止める腕を振りほどこうとした紫暮だったが、泣いている矢野の膝から血が出ているのを見て、我に返る。置いていくわけにはいかない。

「・・・矢野、立てるか」
「う、うん・・・」

立ち上がろうとする七星だが、足が震えているようだった。

「ごめん、平気。ごめんね、いま、立つから・・・」
「・・・無理するな。ゆっくりでいいから」

手を貸して立たせてやる。血の滲んだ両膝が痛々しかった。こんな彼女を、怖がる女の子を置いて犯人を追いかけようとした自分が恥ずかしくなる。

「・・・家、近く?」
「・・・そこの住宅街抜けて、鎮守の神社の先・・・」
「遠い。なんで一人で帰ってる。集団下校しろって言われてたろ」
「一緒に帰る友達が休みだったから・・・ここの公園、近道なの。向こうに突っ切ると。それで・・・」

通り抜けようとしたところに、声をかけられたというわけだ。

「・・・家の人に事情話して、学校と警察に連絡してもらえ」
「う、うん」
「ここ、もう一人で通り抜けるなよ」
「うん、うん、わかった。わかったよ・・・」

畳み掛けるような紫暮の言葉に、一生懸命に相槌を打っていた七星だったが、へなへなとしゃがみこんでしまった。

「・・・ごめんね、ちょっと、気分、が」

ショックを受けている彼女に、追い討ちをかけるようなことをしてしまったようだ。またしても大失態だ。瑞の言葉が蘇る。

「・・・ごめん。矢野、家のひとには俺から説明する」
「紫暮くん、でも」
「いいから。うち、神社のすぐそこだから。電話して迎えに来てもらえばいい。傷の手当しないと」
「・・・ごめんね、」
「膝意外は?なんともないのか」
「うん・・・平気」

まずは彼女自身の心配をしてやるべきだったか。

「・・・もう大丈夫だからな」

背中を静かにさすってやると、少し落ち着いたようだった。彼女は手を貸さなくても一人で歩き出した。

「・・・あの、ごめんなさい。弓・・・壊れてない?」
「いいよ、気にしなくて」

駆け寄ったときに放り投げた荷物を拾い、彼女の歩幅に合わせて家を目指す。いつの間にか、さきほどの違和は消え去り、町並みにも住宅にも、ひとの生活の気配が戻っているのだった。何だったのだろうか。




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