光の雨 神末家綺談最終章
「ここで・・・妹を待っていた。必ず二人で、逃げようと」
そしてその約束は果たされなかった。
だけど、今は違う。
「瑞、まだ間に合う・・・」
あの日、真実を知った日、傷だらけの瑞を心底哀れに思った。あの時代あの場所に自分がいたら、どんなことをしてでも自分が守ってやるのにと。
いま、それができる。
過去をなかったことにできる。瑞を守れる。痛みから、別離から、この先に待つ永く悲しい未来から。
「・・・伊吹」
「大丈夫だからな。俺が絶対に、瑞と妹を守るから」
座り込んだ瑞に手を差し伸べる。伊吹の手を握り、瑞は静かに立ち上がる。
「伊吹・・・笑ってて、くれるのか」
「だって約束したじゃん」
「・・・そうか、そうだったっけ」
瑞が、つられるようにふわりと微笑んだ。
「俺は約束を守る男だぞ、瑞」
「素晴らしい」
「もっと褒めていいよ」
「男前」
こんなやりとりを、時間を越えて交わしていることがおかしくて、伊吹は笑った。
(ああ。だけどこれが最期)
それでも笑う。だって泣いたら、瑞が悲しむ。悲しませたくない。苦しませたくないから。
「・・・伊吹、衛士が来る」
「・・・!」
「みずはめが、待っているのに・・・」
神聖な森を穢す暴力的な足音が轟くのを、伊吹も自身の耳で聞く。
作品名:光の雨 神末家綺談最終章 作家名:ひなた眞白