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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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光の雨 神末家綺談最終章

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涙の乾いた目元に、静かな笑み浮かべて瑞が問うてくる。階段を昇る足をとめず、伊吹は瞳で彼の姿を追う。

「この景色・・・おまえは覚えているか?」
「この景色・・・って?」
「・・・俺が、死んだ森」

ふわ、と瑞の言葉に合わせたように、白い霧が目の前を染める。

「・・・えっ・・・いつの間に?」

そこは、夢で見たあの森だった。石段も、山の木々も煙のように消えうせ、ぽっかりと浮かぶ満月の下に、伊吹は立っていた。池に映る鏡月。ざわざわと鳴く木々。

「・・・時間が、戻ったのか」

現在は過去になった。過去が現在に成り代わる。すすむごとに消えていく現在。逆行した時間の果てに辿り着いたのは、始まりの場所だった。

「み、」

隣の瑞を見て、伊吹は息を呑んだ。

ミルクティーの髪は、どこにもない。黒い、長い長い髪が、風に揺れている。薄汚れた白装束と、泥に塗れた裸足。

「瑞・・・」

夢でみた、雨ふらしの青年が、じっと伊吹を見ていた。握っていた瑞の手は、いつしか痩せこけ、かさかさに渇いていた。

「・・・ああ、そうだった」

瑞が、己の手のひらを見つめて、小さく呟く。

「わたしは、こういう存在だったのだっけ・・・」

ごん、と強く風が吹いて、森が生き物のように鳴いている。
記憶を反芻するかのように黙り込んだ瑞が、草の上に膝をついて座り込んだ。