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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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光の雨 神末家綺談最終章

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(兄妹の父親・・・瑞を殺して、池に投げ入れた・・・)

瑞を殺しにやってくる。雨を降らせるために。

「・・・わたしを穢し貶め殺した者たちの、冒涜的な命の音が、する・・・!」

瑞が呟いたのち、身体を揺らすほどの風が轟音とともに吹き荒れた。思わず目を閉じて腕で顔をかばった伊吹は、風がやんで見上げた先に、漆黒の獣がいるのを見た。

「・・・これは、」

見上げるほどの獣だった。夢で見たのと同じ。血まみれで、傷だらけで、呪われた姿の獣。四足の、どんな動物とも違う姿。狐のようで、狼のようで、しかし背中や腹から突き出た足や、潰れた瞳から流れる涙は、どんな獣よりも汚らわしく悲しく見えた。

「・・・瑞、」

呻く獣の腹を、瑞は静かに叩く。ありったけの優しさをこめて。

「おまえに傷など、一つだってつけさせないからな」

うなり声がやみ、鼻先を落とす獣。その額を撫でてやる。言葉を理解するのだろうか、伊吹の言葉に納得したように静かに目を閉じた。託すように。



「獣だ!!」


声がした。数多くのたいまつの火と衛士たち。それを率いる、上等な着物に身を包んだ男の姿。伊吹は獣を背にして彼らと対峙する。獣の姿におののき、弓を構える者たちを、伊吹は制した。

「近づく者は許さない。傷つける者もだ」

何者だ、と怒号が飛ぶ。この場で自分も射抜かれて死ぬかもしれない。だが、恐怖よりも怒りが勝っていた。無抵抗な瑞を殺した連中、自分の祖先たち。伊吹は激しい怒りでもって彼らと対峙する。

獣のそばにいる不可思議な子どもに恐れをなしたのか、しんと声がやんだ。

「・・・雨は、ちゃんと降るよ。あんたたちが非道な行いをしなければ」

摂理を歪めて、他者を歪めて、結果世界を歪めるのは、いつだって人間の弱さなのだ。誰だってそれを持って生きている。伊吹だってそうだ。

だけど、絶対に捻じ曲げてはいけないものがある。絶対に踏み入ってはならぬ道というものが、あるのではないのか。

「誰かを苦しませて得る幸せなんてまがい物なんだ。瑞を、こんな姿にしたのはあんたたち人間の身勝手で残酷な振る舞いなんだよ」

そう。そしてそれは伊吹ら子孫も同じ。