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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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光の雨 神末家綺談最終章

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時戻し、運命の改変



いつか夢で見たのと同じ満月が、頭の上で輝いている。青い光に照らされる世界には、雪と桜がとめどなく降り、季節の入り混じった独特の匂いに満たされていた。寒くもない、暑くもない。不思議と心地よく、懐かしさに感情が揺さぶられる。
この場所は伊吹たちの住む世界とは切り離された特別な世界なのだ。言うなれば、みずはめのための、手のひらの中の小さな世界。石段は続く。この先には、伊吹と瑞と二人きりの旅路だ。

もう戻れない。伊吹にはわかった。

引き返しても、先ほど通り過ぎてきた場所は失われているのだと直感でわかる。石段を降りても、そこにはもう穂積はいない。小夏と佐里も。村もないだろう。
穂積が瑞の手を離した瞬間から、少しずつ瑞のいた時間が消えていっているのだ。

これが、永遠に瑞を失ってしまうということなのだ。もうすぐ伊吹の、瑞と過ごした時間もなかったことになる。隣にいる瑞のことを思い出せなくなる。

(それでも俺は止まらないぞ)

もう引き返すこともできない。

どこまでも続く石段と、満月の光。美しく妖しい世界。伊吹は瑞の手を強く握り、先に待つ妹のもとへ導く。

(手が、冷たいな・・・)

瑞の熱のこもらない手は、これまで感じたどんなときよりも冷たく、硬い。
穂積との別れは、瑞にとって大きな意味があったのだと思う。友であり、そして父であった穂積との時間を放棄し、それでも瑞は妹のもとへ向かう。

「・・・伊吹、覚えてるか」
「え?」