光の雨 神末家綺談最終章
こんな表情を見ることができただけでも、自分の人生には価値があったと思えるような。
「・・・穂積。魂が輪廻を繰り返すというのが本当で、俺に来世というものがあるのなら」
「うん?」
「次は、本当におまえの子に、産まれたい」
「だから・・・」
続く言葉は、風に消えていった。だが、すべてを言わずとも、穂積には瑞の思いが伝わった。互いにもう、対話は必要ない。穂積はそんな思いで振り返る。
「伊吹が来たようだ」
石段の下に、いつの間にか伊吹が立っていた。
この時代、この場所で、長く続いた物語を終わらせる者だ。穂積とともに、瑞に選ばれて生まれてきた、最後のお役目。
「伊吹」
「じいちゃん・・・大丈夫だよ」
伊吹の目は、もう迷っていない。強くも柔らかな光を讃えたその瞳が、まっすぐに穂積を見て笑った。
「俺が・・・ちゃんと瑞を、あるべき場所へ連れて行く。心配しないでね」
強くなったな、と思う。悲しみは、痛みは、ひとを強くする。強い人間ほど、悲しみを知っている。痛みを味わって生きている。覚悟を決めたのだろう。ならばもう、自分にできることは何もない。
「じゃあ、行くよ」
「ああ」
作品名:光の雨 神末家綺談最終章 作家名:ひなた眞白