光の雨 神末家綺談最終章
「・・・俺、おじいちゃんに会ったこと、ある」
青年は、じっと老人の顔を見つめながら言った。
「・・・なんだろう、ずっと、会いたかった・・・」
ずっと探していた気がする。青年はそう続けた。夏の日差しが静かに水面にとけて、きらきらと光る。
いまじゃないいつかは。
存在していたのだろうか。
「あ・・・」
何か、もう少しで思い出せそうな気がするのに。言葉にならなくて、老人は黙る。青年の瞳は、夜のように深い色を写し、記憶の断片を揺さぶってくるようだった。
――きみは誰だった?わたしの、誰だった?
「思い、出せないや・・・」
青年が呟く。悲しそうに眉が寄り、静かに涙が零れるのを老人は見る。
「思い出せないのが、こんなにも悲しい・・・こんなにも・・・」
彼が泣くのを、自分は確かに見たことがある。それなのに、それが何に由来することなのかが、わからない。なぜ彼の涙を、こんなにも愛おしく思うのかが、わからない。
水鳥が静かに羽ばたいて、止まっていた時間が動き出す。
「お兄ちゃん?」
気がつくと、先ほどの少女が不思議そうにして立っていた。手には二つ、カップを持って。
「どうしたの?」
「・・・お、戻ったのか」
作品名:光の雨 神末家綺談最終章 作家名:ひなた眞白