光の雨 神末家綺談最終章
穏やかで、すべての不安から開放されていくような。そんな瞳。
「穂積」
「・・・行くんだな」
「・・・うん」
二人で並んで、山を見渡す。静かだった。何を話そうか。これが最後だというのに、穂積は何も言えずにいる。
寂しさは、当然にある。我が子同然に愛してきた魂が消え、自身の中からも瑞に関するすべてが失われるのだ。
なかったことになる。瑞はそれを望んでいる。
「穂積。苦労をかけたな」
雪の降る夜空を見上げていた瑞が、突然そんなことを呟くように言う。
「何だ、突然」
「いや・・・だって、言っておかないと」
照れているのか。穂積は微笑ましく思い、胸が温かくなるのを感じた。
「柄じゃないだろう、瑞」
随分人間くさくなったものだ。心が育っているのだなと、穂積はそんなことを思う。
「俺だって、別れ際くらいちゃんとする・・・それくらいわきまえてる」
「清香さんが聞いたら大爆笑だな」
「まったく・・・おまえは俺を何だと思ってるんだ」
「かわいい息子だと思ってるよ」
瑞が言葉を飲み込む気配が伝わる。ざざ、と桜の木が鳴いた。
「手のかかる・・・だけどこの世に唯一の、大切な存在だと、思っている」
作品名:光の雨 神末家綺談最終章 作家名:ひなた眞白