光の雨 神末家綺談最終章
「あれ・・・」
なぜだっただろう。どうしてだっただろう。
ここにいて、何か大切なことを・・・成そうとしていたと思うのだけれど・・・思い出せない。
「・・・おぬし、ここで何をしておるのだ」
青年が目を開けて、立ち上がった。
「え、っと・・・あなたは?」
「わたしは・・・わたしは・・・待つ者がおるから、帰らねばならんのだが・・・おぬしは?」
青年に問われ、伊吹は戸惑う。このひとは、誰だったろう。長い髪、白装束。見たことのない瞳で、訝しげに伊吹を見つめている。
「・・・俺、は・・・ここで、何をしていたか、思い出せなくて・・・」
手にしているのは櫛のようだが、見覚えもない。なんだろうこれは。だけど、不思議と懐かしいような奇妙な胸の高まりを覚える。
「妙なことを言うのだな。不可思議な格好をしておるし・・・精霊やあやかしの類か?」
「・・・・・・わかんない」
ここはどこなんだろうか。夜のようだし、家に帰らなくちゃと思うのだが。
作品名:光の雨 神末家綺談最終章 作家名:ひなた眞白