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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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光の雨 神末家綺談最終章

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「・・・瑞、みずはめが待ってるよ」

コートのポケットから櫛を取り出し、獣の黒い毛を、静かに櫛ですく。怒りを、悲しみを鎮めていくように、櫛を通すごとに獣の身体が浄化されていくのがわかった。大きな瞳がじっと閉じられ、穏やかな呼吸だけが聞こえてくる。

「・・・・・・ここでお別れだな」

さく、さく、と毛並みを梳く音だけが月夜に響く。

「いろんなことがあったけど、俺・・・これでよかったなって思うよ」

ふわりと黒い毛並みが揺れたかと思うと、そこには青年の瑞が立っていた。黒い髪に櫛を通し、伊吹は続ける。背のびをして、彼の髪に手を入れる。

「おまえの望んだ未来がこの先にあるんなら、もう悲しくもない。寂しくもないんだ」

瑞は、されるがままに立ち尽くし、そして小さな声で零す。

「最後のお役目が、おまえでよかった」
「・・・うん、」

手のひらが、優しく伊吹の頭に置かれた。

「おまえは、約束を違えることなく果たしてくれた・・・ありがとう、感謝する」

胸がつかえて苦しいけれど、涙はこらえた。悲しくはない。寂しくはないのだから。笑って、すべてを終わりにしたかった。

「・・・わたしが死して血肉を食らわれたという事実が、なかったことになった。おまえの存在も、もう消えゆくだろう。わたしに関する、記憶も」
「うん・・・」

お別れだ。頬に渇いた手が触れた。自分の手を重ねて握った。

「・・・伊吹、」

名前を呼ばれたのは、これが最後だった。



濃い夜闇の中で、伊吹は髪を梳き続ける。
どうしてこんなことをしているのだろう、と思いながらもやめられない。頭がぼんやりしてくる。