光の雨 神末家綺談最終章
「・・・俺だって、同じだ。同じ罪を負ってる。それをいま、やっと償える」
ばけもの使いだ、と声があがり、衛士らが逃げ出していく。
「帝の所業を、天がお諌めにこられたのだ!」
「なんと恐ろしい、罪深いことか!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出す者たち。何を言っている、と怒声を飛ばしたのは、瑞の父だ。
「都を穢し、人心を惑わすあやかしぞ!構えよ!」
まだ、瑞のことを思い出せる。みずはめの加護が生きている。伊吹は剣印を構えた。負けないと思った。逃げない。絶対に!
「俺を殺したって、雨なんか降らない!あんたたちは救われない!」
怖くない。もっと怖いことを知っているから。
「瑞を傷つけたら許さない!!」
もう二度と見たくない。瑞が死ぬところなど。見るくらいなら、自分が死んだほうがましだ。
そのとき。
「っ・・・!!」
瑞が、獣が吼えた。物凄い音が森中を震わせ、伊吹は耳を押さえ、必死で足を踏ん張る。音が、目に見えるかのようだ。草木を震わせるその声は、怒りだった。
「俺を守ってくれたのか・・・?」
咆哮がやめば、もう森には誰もいなかった。低く呻き、獣が鼻面を伊吹に押し付けてくる。
「ありがとう・・・」
森に静寂が訪れる。色濃くなる懐かしい気配に、伊吹は別れが迫っているのだとわかった。
運命は変えられただろうか。神末家の祖先は、もうない。ここから違う世界が始まり、この先、瑞を待つ未来には伊吹はいない。そして伊吹もまた永遠に、瑞を知らずに生きていく。
作品名:光の雨 神末家綺談最終章 作家名:ひなた眞白