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濃霧

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「2週間もどこで寝泊まりしていたんだ? テレビじゃあ、緊急用は3日分しかないと言っていたぞ?」
温かいロシアンティーを飲み終わった頃、大男がそう尋ねてきた……。

 ユーリは、この質問は何かの間違いだと思うしかなかった……。緊急脱出から気絶までは、数時間ほどしか経っていないはずだからだ……。野宿など結局していない。

「何日もあそこで気絶したままだったんだろうな」
彼がそう言うと、大男は笑い出した。
「あんな場所で気絶していたら、一晩で凍死だよ!!! アンタが坂を転げ落ちる音を聞きつけたんだ! しかも、それは昨日の話さ!」
大男はそう言った……。冗談を言っている様子は無い。
「お…俺は、森の空き地に着地して、それから森を歩き始めたんだ。1日も経っていないはずだ……」
ユーリは、自分でも何を言っているのかがわからないほど、困惑していた。
「おいおい、頭の打ち所が悪かったんじゃないのか? 森の空き地っていったら、あの場所しかないじゃないか!」
大男は方向を指差す。
「女の子が1人で住んでいる場所だ。家と畑があって」
ユーリがそう言うと、大男は目を丸くした……。力が抜けたかのように、すとんと手が下りる。
「どこのことを言っているんだ? このへんで空き地といったら、放射能汚染物質置き場しかないぞ?」
大男は、ユーリを憐れみを持って見ている。どうやら、彼の頭がおかしくなってしまったと思っているようだ……。
「とにかく今は休め。軍にはもう連絡しておいたから」
手の仕草で、ユーリにゆっくり寝ているよう促す。

 だが、突然浮上した強烈な謎が気がかりで、のんびり寝ていることなどできなかった……。
「俺はもう大丈夫だ!!!」
ユーリはそう言うと、ベッドから勢いよく起き上がる。多少の痛みは感じるが、たいした傷ではないようだ。
「おとなしくしていろって! また転ぶぞ!」
「大丈夫だと言っているだろう!」
ユーリは壁にかかっていた上着を急いで着こむと、家から飛び出していく。大男は、突然のことにオロオロとしていた。
 大男の家はログハウスで、森の入口のところに建っていた。森の反対側は、丘が連なっており、遠くには町が見える。

 ユーリは立ち止まることなく、森に入っていく。ついさっきまでベッドで寝ていたとは思えないほどの疾走だった。
「おーい!!! 無茶をするな!!!」
家から飛び出してきた大男が、ユーリの背中に向かって叫ぶ。だが彼は吸い込まれるように、森の中へ消えてしまった。

作品名:濃霧 作家名:やまさん