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濃霧

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 ……男の体は、座席とともにコクピットから勢いよく飛び出す。バリバリと飛び散るキャノピーのガラス。機体から離れるとすぐに、座席に搭載されていたパラシュートが開く。あとは地上までパラシュート降下するだけだが、上下左右は濃霧で、地上がまったく見えない……。
 無人となった偵察機は、どんどんパイロットから離れていき、濃霧の中に消える。パラシュート降下中に、墜落によるものと思われる爆発音が、濃霧の中から鳴り響いてきた。ひどい山火事にならないことを祈るしかない。

 地表に近づいているらしく、霧がどんどん薄くなっていく。しかし、森林が広がっており、急いで着地しやすい場所を探す必要に迫られた……。
「おっ! あそこに空き地があるぞ!」
男の視線の先には、森林の中にぽっかりと空いた場所がある。そこまでの距離は近く、まさに絶好の着地場所だといえた。
 男は、風に流されないよう注意しながら、その空き地へパラシュートを動かす。
「家と畑があるな。これは幸運かもしれない」
霧がほとんど見えなくなったとき、その空き地に家と畑があるのを見つけることができた。小さな家と狭い畑だが、誰か住んでいるようだ。
「敵性民族でないことを祈るしかないな」

 この辺りはロシア連邦内だが、過激な独立運動が盛んな地域であった。彼がこの地域の偵察任務にあたっていた理由がそれだ。
 それはともかく今は、あそこの家の住民が、独立運動に熱中していないことを祈るしかなかった。もしもの場合は、護身用のピストルを使って、「支援」を申し出るしかない……。


 空き地に着地する男。ここまではすべて訓練通りだ。パラシュートは、浜辺に打ち上げられたクラゲのようになった。男は一呼吸着くと座席から立ち上がり、周囲を見渡す。
 2階建ての木造式住居が1軒と、いろいろな野菜が実る畑があった。そして、家と畑がある空き地の周囲を森林が取り囲んでいた。どこかに、ケモノ道があるのだろうか。
 上空を見上げてみると、先ほどまでの濃霧がさっぱりと消えており、青い空が広がっていた……。

「おにいさん! どこからきたの?」

 背後から突然、声をかけられたので、男は飛び上がって驚きそうになった……。彼は、拳銃が入ったホルスターに右手を置きながら、急いで振り返る。
「……なんだ。子供か」

 彼に声をかけたのは、10歳ぐらいの少女だった。赤茶色の長い毛を生やし、露出度高めのワンピース姿だ。彼はロリコンではないので惹かれないが、美少女のレベルだと思う。キャベツやジャガイモなどが乗ったカゴを両手に持ち、物珍しそうに男を見ている。
 他に誰もいないことを確認した彼は、ホルスターから手を離し、ヘルメットを脱いだ。彼の短い金髪が現れる。

作品名:濃霧 作家名:やまさん