エッセイ集:コオロギの素揚げ
五月山季節語り―動物たちの健康の源―
冬の五月山は、なかなかに賑やかだ。雪の積もった日には人間も繰り出してくる。低い山であっても、頂上近くになればそこそこの厚みで雪は積もり、長持ちする。子供たちは雪玉を作って投げ合い、小さな雪だるまを残していく。
私は、雪の上の足跡探しである。
人の靴跡で消される前に歩きたくて、いつもより早く出発した。白くきれいな雪に真っ先に足跡を残す気持ち良さ。足下を何度も振り返って、スノーブーツのゴム底が作る形状を確認する。そして前方を睨みながら進んだ。
同じ日に見たのではないが、確認した足跡の主を列挙しておこう。
シカ、イノシシ、ウサギ、リス、テン、イヌ、トリ、そしてヒト(の靴)。
鳥? 雪の上に鳥の足跡なんて珍しいのでは、と思った。中指で五センチほどの長さ。交互に足を出しているのでカラス? と思ったら後日、コジュケイと出会ったのである。
コジュケイは、餌付けされた鳩のように後ろを歩いても飛ばず、飛べないのかもしれないが、私を少しの間従えてから藪の中に入っていった。まるまるとしたコジュケイの姿に、美味しいやろなぁ、とタレ漬けの丸焼きを頭の隅に描いていても、あわてる風もなく・・・。
繁殖を終え、渡りを終えて餌探しに余念がない鳥たち。鳥たちの日頃の行動を少し。
小さな木の実はほぼ食べ尽くされ、今目に付くのはセンダンの実。銀杏より少し小さい程度。ヒヨドリ、ムクドリ、シロハラがついばんでいる。
風が強い日、ヒヨドリは勢いよくまっしぐらに飛んで、実を咥えるやいなやすぐに引き返していた。何羽もがそれを繰り返し、まるで競争しているみたいだ。
何をしているのか。
風のない日にはセンダンの実だけが残っている木に止まり、ゆっくりとのどに転がして飲み込んでいた。
常緑樹の葉陰で風をよけて、ゆっくりと食事を楽しんでいたのだ。
メジロ、エナガ、イカルなどは集団になって木の実をついばんでいる。どんな実を食べているのか、私には分からない。イカルは大きな木の上の方にいることが多いが、メジロとエナガはすぐ目の前にも現れるから、愛らしい姿に見入ってしまう。
人懐こいジョウビタキも愛嬌がある。時々、トイレの中に入っている。何の用を足しているのか ――。
塩分補給をしているらしい。
ジョウビタキは鼻が利くのだろうか、トイレの役割が分かろうはずないと思うのだが。
道路に撒かれる凍結防止剤(塩化化合物)は、山に生きる動物たちのサプリメントになっているという。
なるほど。森の動物たち、元気でますます栄えていくはずだわ。
2018年 2月16日
作品名:エッセイ集:コオロギの素揚げ 作家名:健忘真実