エッセイ集:コオロギの素揚げ
五月山季節語り―生死を賭けた営み―
前筆に記した、『猛禽類のタカは、体は大きく翼長もあり』という部分を訂正する。
五月山でよく見かけるハイタカは、カラスより小さい。たまに見かけるオオタカとサシバが、カラスとほぼ同じ。トビとミサゴは、カラスよりやや大きい。
12月23日、鳥調査に参加した。5月20日に途中参加して以来である。鳥の種類の知識が増し、鳴き声も聞き分けられるようになった。と思っていたのだが、同じ鳥でも、さえずりと地鳴きがあり、さらに地鳴きでもいろいろな鳴き方がある。異なる鳥で似た鳴き方もあって、もう頭の中がこんがらがってしまった。また出直しである。それでも前回よりは、カタツムリの歩みのごとく、前進しているのではないか、と我を慰める。
毎日歩いている中で、自身で特定できていた鳥はせいぜい10種程度であったのに、リーダーのマァちゃんが今日特定したのは、30種はいるのではないだろうか。
その中で、みんなが興奮した出来事があった。
杉ヶ谷コースの途中、先頭を歩いていたマァちゃんが声を上げた。草むらにいた鳥が、人が近づくことで急に飛び立ち、それがハイタカであることを即座に特定したのである。その飛び筋を追って、20メートルほど離れた大きな木の横枝に止まったところまで見届けた。
誰もが、どこにいるのか見つけられない。鳥を狙ってカメラを担いできた人と出会って、そのカメラで照準を合わせたハイタカを見せてくれるが、私だけが最後まで取り残されてしまった。
カメラの持ち主が「レンズを覗いてごらん。照準が捉えてるから」と覗かせてくれて、やっといる場所をつかんだのである。
双眼鏡で見た。ハイタカは、その間ずっと同じ場所にいた。
背中を見せている。
時々、首を回して顔を見せる。金色の丸い目、尖った嘴。精悍な顔つきである。
カメラマンは「これだけで、今日来た甲斐があった」と喜び、動かないハイタカの動画を、ずっと撮っている。
参加者は、マァちゃんと師匠とMさん。みんな興奮し、満足している。やっぱり、タカは見甲斐がある、と。
ふーん、そんなもんか、と私の心の中。
タカは、20分近くその場にいた。
「飛び立つところを写したい」
しかし私たちは、カメラマンと心をその場に残して、調査を再開した。
その間、タカが姿を現すまで賑やかだった鳥の声が、ぴたりとやんでいた。気配もない。
タカが見えないところまで来ると、再び賑やかな鳴き声に包まれた。
鳥の、生死を賭けた営みの一端に身を置いていたことを感じた。
季節語りに“秋”がないのは、秋の山のことは誰もが知っていることで、それ以上の記すべきことが、特段なかったからである。
というのは、い・い・わ・け・・・てへへ。
2017年12月25日
作品名:エッセイ集:コオロギの素揚げ 作家名:健忘真実