エッセイ集:コオロギの素揚げ
五月山季節語り―タカの渡り―
右手の山かげからタカが飛び出してきた。続いてもう一羽。それを追いかけるようにしてカラスが2羽。タカは目の前を横切って左手側で大きい輪を描いているらしい。「らしい」というのは、ちょうどその位置には太陽があって直視できず、持っている団扇で太陽を隠してその方向を見ていると、団扇の左、そして右、左、右とその姿を見ることができたからである。追いかけていたカラスは、ちょっかいをかけようとしたのだろうがすぐにあきらめて遠のいていった。
2羽のタカは輪を描きながら高度を上げ、北の方向へまっすぐ飛んでいった。
私は斜面を急いで駆け上がったが、木々に遮られてすぐに見えなくなった。
おそらく高度をぐっと上げて、気流に乗ってから西へ向かうのだと思う。
その少し前に、広場で上空高く西方向へ向かっているタカを1羽見ていたのである。それは空に吸い込まれたように、すぐに見えなくなった。だから、今の2羽のタカも、同じコースを飛んでいくのだと思う。
2羽のうち、前を飛ぶタカの腹側と羽がはっきりと見えたのは幸運だった。しかし私には、ハチクマとサシバを見分ける力はない。後方のタカが黒っぽかったので、ハチクマだったのかもしれないという程度である。
これは、9月29日のことであった。五月山頂上近くの、市民の広場にある展望台の横から少し下った斜面の途中に立っていた。眼下には池田市内から大阪中心部、そして泉州方面が見渡せる。東には生駒山、西には六甲山、そして大阪湾が広がっている。
この道はほとんど通らないのだが、広場から見て北方向の上空を西へ飛んでいくタカに、もしかして・・・と思い、少しだけ遠回りをしてみたのだ。
その数日前21日に、広場から南方向に、望遠カメラをセットしている人がいた。何を狙っているのか問うと、タカのことを教えてくれた。
10分前に撮影したというカメラには、集団で舞っているタカが写っていた。
「タカバシラ」
時には50羽以上のタカが上昇気流に乗って舞い上がり、一番上になったものから順番に飛び出していくのだという。北方から来て箕面や能勢の山で休み、淡路島方面へ向かう。そして東南アジアへ。9月中旬から10月中旬に見ることができる。
その壮観な状態を肉眼で見たくて、気にかけるようになっていた。気にしていないと、視野に入らないものである。
10月1日。別の場所で、10羽のタカが円を描いているのを目にした。植物調査で一緒にいた鳥に詳しいマァちゃんが急いで双眼鏡を目に当てたが、集団はすぐに見えなくなった。「う〜ん?」と首をひねっていたから、タカというのは不確かではあるが。
ま、その日にはすでにミサゴ(タカの仲間)を見ていたから、それだけでも満足である。ミサゴは、杉ヶ谷の開けたところでたまたま見上げた時に見えたのだが、マァちゃんが飛び方を見ただけで即答したのである。
猛禽類のタカは、体は大きく翼長もあり、嘴は尖り獲物を狙う目は鋭く、見る者の気持ちを高揚させる魅力を有しているらしい。
2017年10月17日
作品名:エッセイ集:コオロギの素揚げ 作家名:健忘真実