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エッセイ集:コオロギの素揚げ

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五月山季節語り―山は好奇の宝庫―



 同じコースを歩いていても、日々、様々なシーンに遭遇する。
 下を向いて歩いているのでよく目にするのは、動物の糞。すべての落とし主が分かるわけではないけれど、イノシシとシカとテンは識別できるようになった。8月に入ると、それらの落とし物がよく目に付いた。だが、未だに分からない糞もある。
 太くて量が多く灰色の糞はクマかと思ったのだが、犬でしょうと言われた。カルシウム摂取が多ければ灰色の糞になるとのこと。なにより、クマが出没するような場所ではない。
 その糞が、日を追う毎に量が少なくなり軟便になっている。毒キノコでも食べているのかも、と想像は膨らんで犬とは考えにくいのだが、疑問は解けていない。

 それらの糞を、アリやコガネムシなどの虫たちがセッセと運搬して、翌日にはおおかたが消えている。糞にたかるハエは嫌われているのに、糞にたかるコガネムシは愛されている。
 コガネムシは地域によって色が異なり、普通は緑色が多いが、五月山にはルビー色も多く存在する。太陽光線を受けて飛んでいる姿は宝石のように輝いて美しい。奈良には、水色のコガネムシがいると聞いた。

 アシナガバチがセミの腹部を食べている様子も目にした。ひっくり返ったセミの両羽に長い足を曲げて乗せ、それでバランスをとって腹部をかじっている。アシナガバチは華奢なのだ。

 シカの食痕はよく見かける。草の上部をかじっているのは、先端の花を食べているのか。時々、木肌がかじり取られているのを見る。山を守っている人にとっては、非常に困ったことなのだそうだ。イノシシとシカは畑にも出没して根こそぎやられる、と知り合いはぼやいていた。

 リスの食痕は、エビフライ、という。松ぼっくりの種を食べた痕が、エビフライによく似ている。
 そのネーミングに感心するが、植物の名の付き方も面白いのが多い。名前の由来を聞くと、覚えやすい。
 ウグイスカグラ、ウラシマソウ、ヤマナラシ、ブタナ、クララ、ネズミノシッポ、ハエトリソウ、レモンエゴマ、センニンソウなどなど。

 この夏最もわくわくしたのは、ヘビの抜け殻を見つけたことである。しかも、全身が破れずにきれいに残っていた。アオダイショウだと思うが、長い。牙を草の根元に引っかけて脱皮するらしい。尾の方から木ぎれで持ち上げていき、破損なく手に入れることが出来、ニンマリとした。
“五月山の自然展”に展示する物が欲しいと言っていた師匠に差し上げたのであるが・・・人に見せるために袋に入れて持ち歩いていたところ、気づかないうちに抜け殻だけが風に飛ばされてしまった、とのこと。
 また見つけたら取っとくから、と言ったのだが、ヘビの抜け殻は風に乗って、街ゆく人を驚かせたであろうか。


                   2017年 9月 6日