エッセイ集:コオロギの素揚げ
五月山季節語り―スズメバチ―
スズメバチと遭遇することが増えてきた。
ハチと言えば、過去に三回刺されている。
二回目に刺されたときは、一回目の数週間後だったこともあったのか、刺されたのは前腕部だが、手首から肩までが丸太のようにパンパンになって腫れた。病院に行ったが、医者も経験がないとのことで、気休めの塗り薬をもらって、そのうちに治った。おそらく、冷やしていたことがよかったのだと思うが。
三回目は薬指の先で、やはり、その指全体が腫れた。このときは旅行中のことでもあって、傷口を吸って薬は塗らずに、後で冷やした。
今にして思えば、どちらも不適切な処置である。スズメバチでなかったのが幸いだった。
今は、山に入るときには、ポイズンリムーバーを携行している。三回目に刺されてから20年以上経過しているが、次に刺されたらどうなるか分からない。単なる安全保険である。
5月3日。五月山のふれあいコースを下っていると、後方からうなり音を出して顔の横を過ぎていったのは、大きな、大きなスズメバチ。体長7〜8センチ。思わず、「デカッ」と声にした。
女王蜂である。
右の藪左の藪と、入ったり出たりしながら前を飛んでいく。巣を作る場所を探しているらしい。もしくは、餌探しか。
女王蜂は、始めのひと月は巣作りから産卵、餌探し、子育てすべてを単独でこなさねばならない。その大変さを思うと、いとおしさが湧き出てくるものだ。
そうして6月4日、食べ物を探しているスズメバチと出会ったのである。体は、女王蜂の3分の2ほどの大きさ。母親を知っているだけに、親近感を抱いてしまったらしい。その後、度々出会うのだが、忌避することより、どこに巣を作ったのかが気になって、行く先を目で追いかけてみる。巣の場所さえ押さえておけば、近寄らなければいいのだ。
だが、特定できないでいる。およその場所は推定できているのだが。
ハチの警報フェロモンには、アルコール成分が含まれていることが報告されている。それと、ある種の香料にも反応するらしい。具体的にどの匂い成分かは分からないが、化粧品に気を配り、制汗剤・香水などをつけて山に入ることは避けた方がよい。ハチを興奮させる要因になりかねない。
岩登りのザイルパートナーのひとりがスズメバチに刺されたことがあり、教えてくれた情報である。
「酒臭い息は、どうなんやろ」
「やめといたほうがええやろね、たぶん」
「たぶん? 実験してみたら・・・」
・・・どなたか実験された方は、結果をお教えください。
2017年 6月18日
作品名:エッセイ集:コオロギの素揚げ 作家名:健忘真実