エッセイ集:コオロギの素揚げ
バードウォッチャー、誕生!
注文していたNikon PROSTAFF 7S 8×30を、ようやく手にすることができた。野外観察、初心者向けの双眼鏡である。
首からぶら下げて、五月山杉ヶ谷コースを行く、ワクワク気分の初日。鳥がよく集まる場所は、すでに熟知している。しかし途中、鳥の声が聞こえる度に立ち止まって、見上げる。
声はすれど、姿はなかなかに見えないものである。木の葉に遮られているのだ。
鳥がよく集まっている場所まで来ると、周囲を見回した。
囀りが聞こえる。
木の実をつついている音がする。
鳥が止まった場所、木の天辺、林冠に向けて双眼鏡を構えた。
緑色の葉が、良く繁っている。
別の場所に止まった鳥を観るために、双眼鏡を移動させた。
変色した葉が少しばかり枝にしがみつき、裸の枝には団栗のはかまがいくつも残されている。あるいは、太い枝にできた瘤が、視界に飛び込んできた。
地形がカール状になった明るい高みからぐるりと見渡して、びっくりした。
ええっ!? 木の幹が、扁平なのである。双眼鏡を離して見ると、いつも通りの太い幹だ。
大きな倍率でみると、明度も関係するのか、厚みがなくなって見えるのか?
何を隠そう、双眼鏡の御利益は、それを知ったこと、だけであった。
いつもは賑やかに、集団で飛び交っている高原に立っても、鳥はいるのだが、双眼鏡で位置を捉えている間にその集団は、場所を変えてしまうのであった。
せっかくだから動いている物を見ようと思い立ち、伊丹空港が見下ろせる高台に立った。
飛行機の飛び立ちをしばらく追いかける。無論、双眼鏡で。
炭焼き小屋コースを足元に気を付けながら、鳥の声には耳を傾けながら、下って行った。終点は、広場になっている。
裸木に止まっている鳥がいた。
ずんぐりとして小柄な、目の周りが白いメジロと双眼鏡を介して、眼が合ったような・・・。
バードウォッチャー誕生の瞬間である。
10日後。
五月山の野鳥調査に同行できる機会を得た。
リーダーは、鳥の声を聞いただけで、その種類と何羽いるかを伝えていく。どうして? 分かる?
皆が観ている方向に双眼鏡を向けた。
肉眼で位置を確定して、視線を動かさないまま目に双眼鏡を当てる。
この10日の間に、徐々に、焦点を合わせられるようになってきたのだ。しかし、鳥の色彩や特徴を捉えるところまではいっていない。鳴き声はすべて、チッ、チッと聞こえ、区別などできない。ジュルッと鳴いているなんて、どうしたらそのように聞こえるのか。
バードウォッチング。
なんと奥が深いことか。
イカル、オナガ、コゲラ、ミヤマホオジロ、アオジ、などなど。その時にはなんとなく分かっても、すぐに忘れてしまう。
一回に一種類覚えていくことを、今の目標としよう。
2017年 2月 5日
作品名:エッセイ集:コオロギの素揚げ 作家名:健忘真実