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エッセイ集:コオロギの素揚げ

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山の幸は早い者勝ち――鳥よりも、サルよりも早く



 にぎやかだった蝉の婚活歌合戦が終わると、それまでかき消されていた鳥のさえずりが耳に届くようになってきた。蝉の大合唱はキーンキンと頭の中で反響していたが、鳥の声は心の中に優しく沁み入ってくる。手前勝手な感想だ。
 今の時節の鳥は、食べ物の在りかを教え合っているのだろうか。来る冬のために情報交換をして、木の実をせっせと集めている種もいることと思う。

 雨上がりの翌日には、マツタケの香りを一瞬だが、捉えることがあった。五月山の頂上付近には墓地が開かれている。始めてその匂いを嗅いだのは彼岸の頃だったので、松茸御飯を備えているのかもと思ったが、別の場所でも嗅ぐことがあった。
 五月山のことをよく知っている人に出会った時に聞いてみると、
「昔はようなっとったけどね、探してみたら」
と言われた。
 ひとりで藪の中に入って行くのは、藪蛇なら良いが、蝮やムカデや蜂と接触でもしたら困る。やめておいた。すると後日、赤松周辺が掘り返されていた。秋になると、イノシシ、が増えるらしい。
 松茸の場所は人に教えてはいけない、という。匂いのことも黙っているべきだったか。

 ドライブウェイを挟んで墓地があり、駐車できるスペースの奥の緩い傾斜を行くと、植物も鳥も多様性に富んでいる五月山に “市民の森” と名付けられた一帯があって、一部には平地が広がっている。そこではカメラマンの、鳥の姿を追いかけている様子が観察できる。
 そこへ行くまでの道で、Nさんと、名は知らないが顔馴染みの女性が立ち話をしていた。挨拶をして通り過ぎようとしたら、Nさんが上方を指差す。見上げると、赤い小さな実がいっぱい生っている。
「ガマズミ。昨日写真撮っといてよかった。下の方取られてしもて、もうあらへん。」
 傘の柄を引っ掛けて取るのだそうだ。女性がその食べ方を尋ねていたらしい。詳しい人がもうすぐ来るからと、待っているという。
 その詳しいという人はマツタケのことを聞いた人だったが、いっぱいの栗を入れたポリ袋を奥さんがぶら下げていた。
「ふたりで、早うから拾とったんや」
 ガマズミの実は焼酎に入れておくとおいしい酒ができる、とのこと。
 私はそれを聞きながら袋を覗き込んで、スゴッ、と感嘆の声を上げた。
 栗の皮むきはご主人の仕事で、昨年は5時間かかった。栗ごはんと渋皮煮を作るという。
 丹波栗の4分の1程度の大きさの栗である。
 Nさんが「おいしいよ」と教えてくれた栗の木には、イガが林冠部にわずかに残っている程度になっていた。
 それを言うと、Nさんニヤッとしながら、
「なくなってるね」
 痴れっと答える。
「ああっ、さては」
 Nさんの方を軽く指差した。
 すると、初夏にスモモをくれた人が上がって来て、しばらくの間木の実談義。私は、アケビの場所を教えてもらったが、手の届かない所に実はあった。
 栗の木もアケビも、直径3センチ程度の丸い実(口が痺れるほどに渋かった)を付ける柿の木も、いたるところにある。
『今朝はサルみたいな動物が集まって、えらいさえずっとんなぁ』
 鳥たちには、人の声がどのように聞こえているのだろうか。

・・・実を言うとNさんよりも早く、落ちているイガから栗を取り出して、焼いて食べていたのである。数個にすぎないが。
 小さくても、栗は、うまい!


                   2016年10月 7日