エッセイ集:コオロギの素揚げ
五月山にも、クマがやって来るだろうか。
『身近に存在する “野生哺乳動物” との出会い』の中で案じた事象、
――冬のある日、沢沿いの道を下っていた時、斜面から駆け降りてきたシカが道を横切って、沢に下って行った。幅の狭い道で、目の前を急に横切ったので、ドキッ、とした。もし、数秒分早く前に進んでいたなら、体当たりしていたのではないか。
私はシカを認めたと同時に立ち止まったが、シカは急斜面でもすぐに立ち止まったり、方向転換できるものだろうか。ぶつかったら、私が跳ばされることになる。
いつものように沢沿いの杉ガ谷コースを歩いていると、すぐ横でガサッと音がした瞬間目の前に現れたシカは、ハイキングコースを駆け上がって行った。軽やかに駆ける姿にため息をつきながら、曲がり角で立ち止まってこちらを見ているシカに向かって、ヤッコラサッと、歩みを進めた。そうすると、シカの姿は見えなくなってしまった。
これで、前出の疑問が解けたことになる。
シカは、敏捷性があり、柔軟で、急斜面での方向転換は難問ではないのだ。個体差があるかもしれないが。
少なくとも、私が案じる必要はないのだと確信した。ぶつかるとすれば、宝くじに当たる確率程度だろう。
ところで、今年は、クマがよく出没しているらしい。
「箕面の山で、クマが目撃されたから、気ぃつけね」
と忠告された。箕面とは、山続きである。
調べてみると、能勢や高槻北部の道路上に出没したことが、大阪府の『野生動物出没情報』に掲載されていた。京都府ではかなり頻繁に目撃されており、その中にある亀岡市は、能勢・高槻の山続きだ。
十数年前、六甲山系でクマが目撃されたことがある。そのクマが、能勢、箕面、高槻に移動し、京都方面で行方がつかめなくなった。
その冬、小太郎(犬)を連れて、高槻市のポンポン山を歩きに行った。
ハイキング道の雪の上に、動物の足跡が残っていた。明らかに靴ではなく、犬より大きい。
連れに、「クマの足跡やで」と冗談交じりで言った。
頂上で休憩していると、斜面のササ藪で音がし、小太郎がしきりに吠える。
誰か人がいるのだろうと思っていたが、そちらには道がないらしい、と気付いた。
それは、クマだったのだろうか。クマは憶病な動物なので、犬の声に逃げたのかもしれない。
クマだったのなら、ちょっとでもいいからその姿を見てみたかった、と今でも思う。
冒頭四分の一はコピーなので、作文が短くなってしまった。
・・・悪しからず。
2016年 7月31日
作品名:エッセイ集:コオロギの素揚げ 作家名:健忘真実