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エッセイ集:コオロギの素揚げ

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引き続き山での、今度は楽しい実りの、おはなし



 未だに、五月山ウォーキングで沢筋を歩くたびに、ということはほとんど毎日、立ち止まって落ちた地点を確認しているが、いつも首をひねっている。今は、草がかなり伸びてきているが、沢までは、傾斜が急角度であり、あるいは別の個所だったとすれば、大きな段差がある所なのである。
《ひょっとして、空を跳んだのか》という結論に近づいてきている。
 方向が沢に向いた瞬間、視界が暗くなり、後ろに流れ去る草の葉の天辺を、目の片隅で捉えていただけだった。足元は、見えていない。そしていきなり、沢の中の石が目に付いたのである。
《きっと、(私は)仙人に違いない》と考えることにした。

 さて標題だが、5月に見つけた野イチゴに続いて、6月から7月初旬にかけて、ヤマモモ、ナツハゼ、スモモを味わった。
 歩いている時には、ほとんど下を向いているので、地面に沿って生る野イチゴとキノコは、自然と目にすることになる。
 いろいろな種類のキノコがたくさん姿を現しているが、素人にとっては怖いので無視している。
 鮮やかな赤色の野イチゴは、洗って口に含んだ。
 残念ながら、種っぽいので吐き捨てた。

 いつも3人で歩いておられる夫婦と男性のグループが、何か探し物をしているらしいところに出会った。
「どうしたんですか」と尋ねると、「ヤマモモ」と言って、小さく赤い実を差し出してきた。
「焼酎に漬けたらワインになるねん。うまいよ」
と、上を指した。
 高い木に、実がいっぱい生っていた。木をゆすって、落ちた実を拾っているという。
「食べてみ」と差し出された実を、口に入れた。
 指先の半分ぐらいの大きさなのに、いっちょ前に種がある。種がなければ、いっぱい頬張れるのにと思いながら、甘酸っぱさをおいしく感じた。
 アルコールは嗜まないので、拾わずに別れた。
 ヤマモモの木は至る所にあり、落ちた実は踏みつけられている。熟しすぎたのだろう、最近はあちこちで、饐えた臭いを放っている。

 年上のその女性はひとりで、いつもいいペースで歩いておられる。
道端の低い木を熱心に見ておられたので、「何かあるんですか」と尋ねた。
 掌を開いて差し出してきたので覗くと、小さな黒い実が数個乗っていた。
「ナツハゼ。いつもは秋に実が生るのに、今年は、2回実るのかしらね。ジャムにするとおいしいのよ。前まではグループで集めて、ジャムを作ってたの。この大きいの、食べてごらん」
 小さいけど、甘酸っぱくておいしい。種もない。
「おいしい。ありがとうございます」
 ニコッとして、別れた。

 その数日後、前出の3人がそれぞれ、長い棒と虫捕り網を持って上がってきた。
 びっくりして、「どうしたんですか」と尋ねると、「スモモが生ってるとこあるねん。一緒に来たら、教えたげるよ」
 もうだいぶ下っていたので、そのまま別れた。
 翌々日、「10人ばかりになって、みなで採りに行った。炭焼き小屋の先にあるんや。ぎょうさんあったでぇ。昨日はその10人で、中山に登りに行っとったさかい、(こっちは)少なかったやろ」と。
 さらに数日後、炭焼き小屋コースを下っていると、その3人に出会ったのである。全くの偶然。
「それあげて、全部」
と、ご主人が奥さんに。
「落ちてたん、そんなけ。高いとこのは、届かんかったさかい」
 袋の中には、スモモが数個入っていた。
「せっかく採らはったのに、悪いわぁ」
と言いつつも、喜んで頂戴した。


 展望台近くの道で、顔馴染みの男性が立ち止まって、見上げていた。私の顔を見ると、「栗が、ぎょうさん生りよる」と。
 見上げると、若草色したイガが、いっぱい生っている。
「山栗は小さいけど、うまいよ。サルが食べに来るからね」
 
 かなり昔になるが、島根国体の参加選手になった時。
 友とふたりで縦走コースの下見がてら、落ちていた栗を拾い、その夜のツェルト(簡易テント)の中で、ガスバーナーに網を乗せて焼いて食べた。おしゃべりしながらも、長い夜の暇つぶしに、ちょうどよかった。
 友は、翌々年、遭難死した。

 秋になったら、サルより先に、いっぱい拾おうか。


                   2016年 7月 9日